義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
「ねぇ、小鳥遊先輩って今日はバスケ部だよね」
 少し離れたところで、例の二年生の女子が隣の子、同級生の子だろう。その子に話しかけているのが聞こえた。梓はどきっとしてしまう。
 少し前。渉のことを気にしていると察してしまったとき。
 そして先日。渉が近付いたとき、意識するような反応を見せたとき。
 それらを見てしまってからどうにも落ちつかない。
「そうだね。お盆明けにすぐ大会なんでしょ」
「うちのバスケ部の男子もぼやいてたよ。練習キツすぎるって」
「バスケ部、一昨年結構いい線まで行ったんでしょ。今年こそはってことだよねぇ」
「そうだろうねぇ」
 おしゃべりばかりでは会長や副会長・金糸先輩に注意されるのでは、と思いつつ、梓はどうしてもそちらをちらちら見てしまった。
 その子たちの話している内容はその通りだ。
 でも違うのは。
 わざわざ友達同士、知り合い同士の会話に出さなくても、梓はずっと前からそれを知っている、ということ。
 ああ、まただ。
 梓は心の中でため息をついてしまう。
 こんなふうに「私は先に知ってるの」なんて、図々しかったり醜かったりする気持ち。なんだか前より頻繁に感じてしまうと自覚していた。
 こんな汚い気持ち、抱きたくないのに。
 そしてもうひとつ。
 こんな感情が湧いてきてしまう理由だ。そんなものは、渉への特別な感情から来ているのに決まっていた。そのくらいわかっている。そんなに鈍くない。自分のことなのだし。
 でももやもやしてしまうのは、その感情の正体よりも、それがどういう気持ちが生ませているものなのか、というのがわからない点だ。
 普通の、特に兄妹とか家族とかでなければすぐにわかったかもしれないのに。
 「『小鳥遊先輩』のことが好き。きっとこれは恋だよね。先輩の男子だし」なんてふうに。
 でも渉は『お兄ちゃん』なのだ。それで恋愛感情なんて聞いたこともないし……ありえるのだろうか。
 まったくわからない。ゆえに進めないし、じゃあやめちゃう! なんて放り出すこともできないのだった。
「こら! お口ばっかり動いてるけど、ちゃんと進めてるの?」
 不意に違う声がした。やはり見とがめられてしまった。金糸先輩だ。
「すっすみません!」
「やってます!」
 おしゃべりに夢中になっていた子たちは、あわあわと謝ったり、言い訳をしたりした。
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