義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
 それは確かに体感していた。街並みがもう、今まで過ごしていた埼玉の奥地とはまるで違うのだ。比べたら失礼だが。
 石だたみの地面だけでも高級感があるし、標識や公共物も壊れてなんかいない。
 建っている建物も新しく、また都会的な印象。しかも整然と並んでいる。
 元々暮らしていた埼玉の家のあるエリアは、昔ながらの住宅街という雰囲気だった。どこにでもありそうな街だ。
 民家がいっぱい、ごちゃごちゃに建っている。昭和の時代から建っている建物も多いだろう。建物自体も古いし、ほかの家やお店などとの統一性もない。
 でも梓がその街を嫌いだったかというと、そういうことはまるでないのだった。
 むしろ過ごしやすいと思っていた。気を張らなくていい、というのか。良い意味でまったりできる気持ちになれる。
 学校までは三十分近くも歩かなくてはだったけれど、そのぶん近所の友達とたくさん話をしながら歩けたし、長いとは感じなかった。おしゃべりしたいことなんて、三十分でもたりないのだから。
 だから、ここに引っ越してきて、元の生活と比べることになってしまったときは、やはりここは夢の街のような気がした。どうして自分が急にこんなオシャレな生活をすることになってしまったのか、といまだにたまに不思議に思うのだった。
 それは『お母さんの再婚』という、自然で、まぁまぁたまには起こるだろう出来事のためなので、理由としてはまるで不思議ではないのだけど。
 でもそれに付随してこんなオシャレな街に住み、オシャレな学校に通い、おまけにイケメン王子様なお兄ちゃんまでできてしまったのは……やはり夢のようであった。
 運がいいのかなぁ。
 たまにそう考えるのだったが、yesかnoかといったら、『yes』であろう。
 でも一番大切なのは、今の生活が心地いいかどうかということ。オシャレさやカッコいいお兄ちゃんという、そんな要素だけではない。
 それを考えると、梓はやはり『この生活になって良かった』と思うのだった。
 オシャレな暮らしができることでも、イケメンのお兄ちゃんがいることでもない。
 梓がそう暮らしていて『楽しい』とか『幸せだ』とか感じられること。それが一番大切だから。
 街は快適で安全であるし、家の中は穏やかで新しいお父さんも梓を大切にしてくれたし、お兄ちゃん、いや、渉はイケメンである以上に、優しくて頼りになった。
 だから梓は今の生活を気に入っている、と胸を張って言えるのである。
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