義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
「ね、梓ちゃん」
 不意に、背中をつんつん、とつつかれた。
「なに?」
 ちょっと驚いたけど、すぐにわかった。うしろの席に座っている友達……朝、声をかけてきた元気な笑顔の子、火焚 楓(ひたき かえで)である。梓の一番の友達。
「外! 三年生が体育みたいだよ」
「え? ……あ、ほんとだ」
 窓のほうに目を向けた。窓までには机の並んだ席がもう一列あるけれど、外は見ることができる。
 そこからグラウンドの様子が見えた。わいわいとしている様子は三年生の体操着のものだった。
 いや、体操着というよりジャージ。それもラインの入った厚手の生地の半袖シャツと、同じくラインの入った長ズボンのジャージ。体育の時間に着るように指定されているもの。
 当たり前のように、埼玉の学校の、そっけない白いシャツと紺色の短パンという体操着より、百倍ほどスタイリッシュな印象である。
 そしてそのカッコいいジャージを着ている男子生徒、先輩たちの間に渉の姿が見えた。
 あ、お兄ちゃんだ。
 梓は心の中で言った。
「小鳥遊先輩がいるね」
 ひそひそと楓が囁いてきた。楓も気付いたのだろう。
 というか、窓の外の体育の授業模様に気付いたのは、梓たちのいるこのクラスの様子から、かもしれない。
 女子たちがなんだか落ち着きがなかったから。みんな、窓の外の高等部の、というか、『小鳥遊先輩』の存在に気づいてそわそわしていたのだろう。教室内の空気はちょっと浮足立っていた。
 ちらっと黒板の前を見ると、先生があまり良い顔をしていないのがわかった。みんなが集中していないのは明らかだったので。
 今はまだ怒っているわけではないけれど、これ以上騒いだりすれば注意が飛ぶだろう。
 おとなしくしてないと。
 梓は自分に言い聞かせた。
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