義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
 楓は十分も経たずに戻ってきた。渉は首尾よく捕まったらしい。
「はい、これ」
 楓がなにかを差し出してきたので、梓はやっと顔を上げた。そこには小さいサイズのペットボトルがあった。
「飲むと落ち着くよ」
 ペットボトルのラベルにはアイスココア、と書いてある。梓はまた、ぼうっとしてしまった。
 書類も任せてしまったし、そもそもここに連れてきて休ませてくれたのもそうだし、なのに飲み物まで。
 自分が情けなさ過ぎる。親友に頼りっぱなしで。
 その気持ちから、ぽろっと涙がこぼれたけれど、楓はそんなこと予想していたとばかりににこっと笑う。
「早くしないとぬるくなっちゃうよ。私も自分の買ってきたから休憩にしようよ」
「…………ありがとう」
 梓は、ごめんね、と言いかけてやめた。代わりにお礼を言う。
 謝るのはもう少し落ち着いてからのほうが良さそうだ。
 きゅっとペットボトルのふたを開けて、中身を口にする。ほどよく冷えたココアが喉に落ちてくる。
 優しい甘さをしていた。こごえていた心をほどかせてくれるような甘味。
「ココアは冬にホットでってイメージなんだけどさー、アイスココアもおいしいよね。チョコレートドリンクみたいで。たまに飲みたくなるの」
「……うん。冷たいチョコレートみたい」
 言ってから驚いた。意外と普通にしゃべれたことに。さっきまでは断片的であったり、頷くしかできなかったりであったのに。
 早速ココアが効いてくれたような気がする。
 本当はココアが、ではなく、楓の優しさが梓の状況だけではなく、心も助けてくれているのだとわかっていたけれど。
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