義理のお兄ちゃんの学園プリンスに愛されちゃってます~たくさんの好きをあなたに~
 しあわせと、あたたかさと、少しの痛み。
 痛いのはもちろん、昼間見てしまったことだった。
 告白されたのを見たのも、「好きな子がいる」と聞いてしまったのもショックだった。
 それはなくなりやしない。
 好きな子、かぁ。
 梓はその痛みの根源のことを考えて、ちょっとシーツを握ってしまった。ふわっとお日様のにおいがするシーツ。
 渉を好きな気持ちは受け入れた。肯定した。
 けれど、渉も自分を同じように思ってくれる保証はないし、自分で「好きな子がいる」と言っていたなら、片想いをしているということだろう。
 相手はいったい誰なんだろう。
 同級生とか。後輩とか。
 クラスメイト。部活のひと。生徒会のひと。
 候補なんてたくさんいすぎた。
 なにかの間違いで、自分だったらいいなぁとは思う。
 けれどそんなに都合のいい話はないだろう。
 渉にとって梓は妹なのだ。妹に恋をするというのも、やはりあまり一般的ではないだろう。
 でも。
『血が繋がってないなら結婚はできるんだぜ』
 これは渉が自分でそう言ったのだ。
 それどころかそのときに「お嫁さんみたいだな」と言われている。
 それは自分のことを、妹としてではなく少しでも考えていてくれる、感じてくれている、そういうものだったら。
 非常に都合のいい話だ、これだって。
 でもそう言われたということは、梓に少なからず期待を抱かせた。
 今は梓の気持ちが落ちついていることもあって、いい方向に考えられているのもあるだろう。
 もし叶ったら、どんなに幸せだろうなぁ。
 思って、梓は目を閉じた。
 渉に抱きしめられたときのことを思い出す。
 しっかりした腕と胸、とくとくと速くなっていた心音。
 そしてシトラスのほの甘い香り。
 どれを思い出しても、胸の中が甘く締め付けられる。
 それは心地いい感覚だった。
 もう一度、あんな経験ができたらいいのに。
 不透明になっていく意識の中で、梓はそんなふうに望んでいた。
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