ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜


 ――好き

 その言葉に、心がキュッと締め付けられた。



「そういうのじゃ、ないよ。」

 一瞬、胸のあたりがザワっと変な感じがした。


 頭が混乱して、ボーッとする。その時、私は何かに気づきかけていた。

 でも、それを知るのが怖くて、何も見えないよう心に蓋をしようとした。


「騙されてたし、最初凄い感じ悪かったし。それに、あの人とはただ一緒に住んでたってだけ。それ以上でも、それ以下でもないから。」


 私は、彼と付き合っていたわけではない。

 好きあって、夫婦になったわけでもない。

 お互い、ただ結婚したという事実が欲しくて、一緒にいただけの赤の他人。元々、そこに愛なんてなかった。

 むしろ、千秋さんが欲しかったのは、その愛のない結婚だったから。


 自分を納得させる呪文のように、心の中でそう唱え続ける。自分でも恥ずかしくなるくらい、ムキになっていた。


「まあ、そう思いたいならいいっすけど。」

 またキッチンの方へと向き、彼に背を向けると、背後からそんな呆れたような声がする。

「好きでもない相手に騙されたからって、半年も引きずるもんなんですね。ど新人の時にも割ってなかった皿割っちゃうくらい、一回の連絡で動揺して。」

 彼は本当に、ズバッと人の確信をついてくる。

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