ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜
「はぁ.....。」
気づくと、私はリビングのソファに座っていた。
鍵なんて、ポストに返しておけばそれで良かった。でも、投函口に手を入れた瞬間、もう一人の自分が止めに入った。
この鍵が、千秋さんとの関係を繋ぎ止める最後の鍵。そんな気がして、手放すことができなかった。
私はなんて、諦めの悪い女なのだろう――。
自分でも、何がしたいのか分からない。近くにあったクッションを抱きしめ、大きくため息をついた。
しーんとした部屋の中でひとり、ぽつんと座っていると、何気なく目に入る家具たち。モデルルームのような生活感のない部屋だと、そう思ったあの日のことを思い出した。
それは、この家に初めて来た日。
けれど、今は不思議と少し違って見える。
あの日から何ひとつ変わっていないはずなのに、今となっては、そのひとつひとつに思い出が詰まってしまい、そんなことも思えなくなった。
いつの間にか、ここはもう私の家になっていた。
私は、その景色を目に焼き付けるように、じっくりと辺りを見回した。
もう二度と来ることはないのだろう。そう思いながら、そのひとつひとつの思い出と共に、心の中へ仕舞い込む。