ホオズキの花 〜偽りから始まった恋の行方〜

「はぁ.....。」

 気づくと、私はリビングのソファに座っていた。


 鍵なんて、ポストに返しておけばそれで良かった。でも、投函口に手を入れた瞬間、もう一人の自分が止めに入った。

 この鍵が、千秋さんとの関係を繋ぎ止める最後の鍵。そんな気がして、手放すことができなかった。


 私はなんて、諦めの悪い女なのだろう――。

 自分でも、何がしたいのか分からない。近くにあったクッションを抱きしめ、大きくため息をついた。


 しーんとした部屋の中でひとり、ぽつんと座っていると、何気なく目に入る家具たち。モデルルームのような生活感のない部屋だと、そう思ったあの日のことを思い出した。

 それは、この家に初めて来た日。


 けれど、今は不思議と少し違って見える。

 あの日から何ひとつ変わっていないはずなのに、今となっては、そのひとつひとつに思い出が詰まってしまい、そんなことも思えなくなった。


 いつの間にか、ここはもう私の家になっていた。


 私は、その景色を目に焼き付けるように、じっくりと辺りを見回した。

 もう二度と来ることはないのだろう。そう思いながら、そのひとつひとつの思い出と共に、心の中へ仕舞い込む。

< 195 / 264 >

この作品をシェア

pagetop