恋する乙女はまっしぐら~この恋成就させていただきます!~
はっきりと断言した俺に、辺りは一瞬静まり返り、すぐに拍手が沸き上がった。

「良かったね~本多ちゃん」

「うんうん、よく頑張ったよ」

そんな看護師たちの弾む声が聞こえてきて、医院長をはじめ、院内には彼女の味方しかいない事実を改めて認識した。

(これは…。本当のことがバレたら大騒ぎだな)

そう、俺たちは恋人は恋人でも偽りの恋人なのだから。

暖かな祝福ムードの医局で、俺は冷めた目で周りを見ながら、どうしたものかと思案しながらこうなってしまった経緯を思い出していた。


そう、あれは3日前のことだ。
懇親会という名の医師交流会がお見合いを兼ねたパーティーなのは前々から耳にしていた。

いつもどうにかその日程を探り出して当直担当シフトにして仕事を理由に断ったり、まだ20代のうちは仕事に打ち込みたいから恋人なんて考えたくないときっぱり断って逃げてきたが俺ももう32だ。
 
いつのまにか外科医としては古株になり、「そろそろ沖田先生も落ち着いたらどうだい」と妻帯者の医師たちから言われるようになっていた。

そろそろ落ち着くも何も、俺はずっと落ち着いている。
一人に縛られたくないからと、恋人も作らずいろんな女と遊んでなどいやしない。

ただ、俺も男だ。
月に1度はふらりと足を運んだバーで、意気投合した女と一夜限りの関係をもつことはあった。

名前も知らない彼女たちの顔を身体を重ねても、記憶力のいい俺だが誰一人思い出せやしない。たぶん、女に興味も関心もない俺には、どの女も同じにうつり記憶にとどまりもしないのだろう。

それなのに、"本多真琴" 彼女の真っ直ぐな意思の強そうな瞳をはじめて目にした時から、彼女の顔ははっきりと俺の記憶に残ってしまった。
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