恋する乙女はまっしぐら~この恋成就させていただきます!~
半年…。
あと半年で私は30歳になる。

実家は山形の温泉地にある代々受け継がれてきた歴史のある老舗旅館だ。

跡継ぎだった3つ上の兄は、跡を継ぐのが嫌で高校をでてすぐ実家を飛び出しいまだに音信不通だ。兄がいなくなり、当然のごとく跡継ぎとして白羽の矢が当たったのが私だった。

高校に入ってすぐ、卒業したら女将見習いとして旅館で働くように母と祖母に言われ続け、毎日放課後も休日も旅館の手伝いをさせられ友達と遊ぶ時間ももてなかった。

自由もなく、好きな未来を選べない…。自分勝手に生きる兄が羨ましかった。諦めの毎日だった。

それでも18の私は、料理が好きでお菓子作りにも興味があって、雪深い田舎町より東京という街と人にどうしようもなく惹かれ憧れたのだ。
諦めきれなくて日に日に膨らむ思い。

だから私は、小さい頃から私に甘い父に我が儘を言って泣きついたのだ。
今後の旅館のために料理とお菓子の勉強をしたいから東京の大学へ行かせて欲しいと。

一時でも束縛から逃げたくて、夢を見たくて、父を味方につけて母と祖母をどうにか説得して東京の大学へ進学するため上京した。

そして就職も押しきるように東京に決めてしまったのだ。

すべてが決められた未来が嫌だった。このまま、自由に思うままに生きたかった。

だって、私は好きな人を見つけてしまった。すぐには叶わない想いでも、届かない想いでも、沖田先生の側にいたかった。このままここに居続けたい…。


だけど…。



私を応援して我が儘を聞いてくれた父だったけど、いずれ私に旅館を継がせることは母と同じ考えだった。

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