恋する乙女はまっしぐら~この恋成就させていただきます!~
「自由に過ごしていいのは30までだ。真琴、30の誕生日を迎えたらここに帰ってきなさい」

ぎゅうっと拳を握りしめ黙り込んだまま唇を噛み締めた私を見て、父は小さな溜息をついた。

「…チャンスはやろう。逃げ出した和臣の代わりにすべてを真琴に背負わせてしまうのはあんまりだな。真琴、自由に生きる機会をお前にもあげよう。30までにお前が幸せになれる相手と巡りあって結婚できたなら、ここを継がなくていい。その相手と共にこの先の人生を歩んでいきなさい」と。

しかし母からはこんな条件が追加された。

30までに結婚できなければ板前として働いている幼なじみの匠と結婚して跡を継ぐのだと。

匠もこの件は了承していて、成人式の日、私達は婚約した。
お互いに生涯ともに生きていきたいと想う相手ができた場合はすぐに婚約解消することを約束して。

そう、もう私にはあと半年しか残された時間はないのだ。

これが私が先生に知られたくない半年という期間の着地点。

ベッドから勢いよく飛び起きて両手を上に向けて大きく伸び上がる。

「やるしかない!!」

今はもう旅館を継ぐ継がないなんてどうでもいい問題だ。

私が好きでずっと一緒にいたい人が沖田先生なのだ。
実家になんて帰りたくない。
先生のそばにいつづけたいのだ。

両手で頬をぱちんと叩き気合を入れる。

こんなに長い間追いかけても、振り向いてくれない先生が私に恋に落ちるのなんて1%あるかないかだ。

だけどせっかくつかんだこのチャンス、絶対に逃すわけにはいかない。

ピロんとなった携帯に『起きたぞ』と短いメッセージが届いた。

折れかかった心に、こんな短いたった一言で先生への想いが私の全身にやる気をみなぎらせる。

私の元気になる源はいつだって沖田先生だ。挫けそうになった時、いつも私の心を勇気づけてくれるのは先生だ。

(早く会いたいな…)

そうだ!

時間はまだ十分ある。先生の顔を思い浮かべながら得意なお菓子をプレゼントしようと私はキッチンに向かい髪をまとめてエプロンをつけた。
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