腹黒策士が夢見鳥を籠絡するまでの7日間【番外編② 2021.5.19 UP】

 仕事終わりに大学の正門で待ち合わせして、車の助手席に乗せて帰路につく。
 家に着いた時、あげはちゃんはあんぐり口を開けて我が家を見上げた。

「うわぁっ、大豪邸!」

 何その顔? かわいすぎない? これ普段あの人が独り占めしてるのよね。なんだか悔しい。キレイなものや可愛いものは、普通、みんなで共有するのが常識じゃない?
 そんなことを思う気持ちを隠しながら、

「そんなことないわよう」

と笑う。いつもより自分の口元が緩み切っているのは、仕方のないことだ。

 あげはちゃんはまだうちを見上げながら、
「芦屋先生って一体……」
と呟いていた。



 あげはちゃんにはまだ教えていないけど、実はうちは資産家の曽祖父、政治家の祖父、国立機関の研究者の父、そして総務省に勤める母といろいろと揃っている。そのため、東京のど真ん中にこんなに大きな家があるのだ。

 私も兄弟たちも勤め先が近いので、わざわざ一人暮らしをするようなことはなかった。
 実家とはいえ広い家なので、それぞれが結婚するまではここで自由に暮らしているのだ。

「材料いろいろ買ってきましたけど、食べられないものとかないですか?」
「なぁんでも食べるわよ。兄たちなんてそこら辺の草でも食べるわ」

 あげはちゃんは、それウソですよね、とクスクス楽しそうに笑った。
 まぁ、あながち嘘ではないけど、と思いながら、微笑み返す。最高の一日だわ、と思いながら……。

 あと数時間は、うまくいけば数日は、あげはちゃんを独り占めできるなんて天国だ。

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