狼男  無限自殺 編
第3話











自己紹介をしたのは・・彼女の名前を知ったのは電車に乗り込んだ後だった。


「五味フミヤ・・・。」


「佐々木アオイです・・。」


“これからどうするんですか?”
“どこに行くんですか?”

といった事は聞いてこなかった。


僕も彼女も“逃げられなかったら死ぬ”と決めていたから、

ある意味でヤケクソだったのかもしれない。

ある意味で、校舎の屋上に代わる死に場所を探しに行く感覚だったのかもしれない。



ゆらり揺られる急行電車。
3回の乗り換え、1回のトイレ。


食欲が無いのは今に始まった事じゃないので、二人ともペットボトルのお茶で十分だった。



周りから見たら、僕達はどういう風に見えていたんだろう?


生気の無い顔をした子供同士。

付き合っているのか友達なのか分からない距離感の男子女子。


幸運な事に、
誰にも話し掛けられなかった。


気さくに話し掛けられたらきっとちゃんと返せない。


気さくに話し掛けてくる通行人に気さくに答えられるぐらいだったら、

そもそも僕達はこのような地獄に居ない。



5回の乗り換え、2回のトイレ。


腕時計が20時を示したところで、
僕達は電車を降りた。

12時間振りに“駅”から離れた。


駅名からここが何県なのかは、
なんとなく分かった。

今が地獄じゃなかった頃、
“桃太郎電鉄”というゲームが好きで、

そのお陰で地名はなんとなく覚えていた。

それと同時に、僕が自己紹介以来、“トイレ行く?”以外に佐々木さんに発した言葉だった。




「もしかしたら・・親戚のお家があるかもしれないです・・。」


「え・・・・。」


ここが大体どこら辺か伝えたところ、
意外なリアクションが返ってきた。


「お父さんのお兄さん・・
だったと思います・・。」


「ここに来た事あるの・・?」


「いや・・でも・・・
年賀状で見た事があって・・。」


携帯も持っていない子供。駅名は分かるけど土地勘は全く無い素人。

“泊まる”という事を考えていなかった2人。


乗り換えまでは僕が少し前に出て歩いていたけど、ここからは佐々木さんが先に歩き出した。




「・・嫌われてました・・。」


「・・・・?」


「お父さんのお兄さん・・。」


「・・・・・・・・・・。」


「・・でも私は好きだった・・・。」


「・・どうして・・・?」


「・・“自由”な人だったから・・。」


「・・・・・・・・・・・・・・。」


「最後に会ったのは小学生の・・
3年生ぐらいで・・

お父さんから“ゼツエン”って言われてました。」


「ゼツエン・・って・・?」


「分からないけど多分・・“もう会わない”っていう雰囲気だったと思います・・。」





しばらく歩くと、神社が突如として僕達の前に現れた。


鳥居をくぐった先、お賽銭箱までの間に屋根が付いているちょっとした休憩場所があった。


だから吸い寄せられるように僕達はそこへと向かった。


“朝からお茶しか飲んでいない”
“ずっと電車に揺られていた”

・・・・“歩き疲れた”・・・

・・“久しぶりに自分達の意思のみで[生きた]”


そんな実感が沸いたのは・・どっと押し寄せてくる眠気に襲われたのは、

そこに2人で寝そべってからだった。



死ぬ為に出発して辿り着いた見知らぬ地。もしかしたら最後の睡眠になるかもしれない。


彼女も分かっていたからこそ、
涙と共に震える左手を差し出してきた。


・・僕も分かっていたからこそ・・
震える右手をそこに繋ぎ合わせた・・。
























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