狼男  無限自殺 編
第7話











「・・ウウゥ・・!
ハァハァ・・ウウゥゥ・・!!」


「頑張れアオイ!頑張れ!!」
「アオイちゃん!呼吸だべ呼吸!」
「ヒーヒーフー!!」


陣痛が始まったその体を布団に寝かせて、苦しそうに汗ばむその額をタオルで拭う・・。


“無知”な僕はただ・・
それだけしか出来なかった。


オジサンが“頑張れ!”と声をかけ、

仲間のお婆ちゃん達がアオイの下半身を確認しながら・・一緒に呼吸をする・・。


「ハァハァ・・!
ハァハァ・・ウゥゥ・・!」


“無知”な僕でも・・【何か様子がおかしい】という事に段々と気付き始めた・・。


ここには勿論病院は無い。


月に2回、街からやって来る回診医さんは、

“[少し早いけど念の為来週から]大事を取って産婦人科さんで入院したほうがいいね”

と告げていた。


つまりそれは・・[今]陣痛が来る事は想定外のタイミングだという事・・。






「連れてきたぞ!!
おっかさんこっちこっち!!」


仲間のお爺ちゃんがその体に鞭打って、隣の集落にいる唯一の助産師さんを呼んできてくれた。


「良かった・・!

アオイ・・助産師さん来てくれたからね?
これでもう大丈夫だからね・・?」


「・・・ウゥゥ・・・・!」



僕もオジサンも皆も・・安堵が漏れた。

アオイはもう何時間も苦悶の表情を続けている。それなのに一向に赤ちゃんが出てこない。


でも助産師さんが来てくれたから・・専門の人が来てくれたから、

きっとこれで良くな・・



「・・これは・・ダメだよ・・。」


「「「「・・・・・!?」」」」」


「お産が止まってるかもしれない・・後方後頭位になってるかもしれないよ・・!」


「お、おおおいおっかさん!
もっと分かりやすく教えてくれよ!」


この場の全員の“?”をオジサンが代弁して助産師さんにぶつける。



“分娩の時、赤ちゃんはくるっと回転しながら産道を降りてくる。

でも僕達の赤ちゃんは今、アオイのお腹側を向いて止まっている可能性がある”



助産師さんの説明を受けても、
僕達は何が何だか分からなかった。


最後に助産師さんが言ってくれた、

「このままだと赤ちゃんの体力が持たない。」

「心臓に負担が掛かりすぎているアオイちゃんの命も危ない。」

という言葉の意味だけが理解できた。



「どうすりゃいいんだよ!?」


「びょ・・病院!
帝王切開してもらうしかないよ!!」


「きゅ・・救急車救急車!!」

「バーロ!街から最速で1時間も掛かるんだぞ!?」

「そこからまた運んでもらったら・・アオイちゃんが・・!」



オジサンや仲間の皆が右往左往しながら・・ずっと頭の中に鳴り響く。


アオイの命が危ない・・・?
子供の命が・・・・?


「・・・ウゥゥ・・フミヤ・・・・。」


意識が朦朧としているアオイが・・
ぎゅっと僕の手を握り返す。


アオイ以上に・・
僕の呼吸も乱れていく・・・。



「僕が・・僕が連れて行く・・!!」


「「「「「・・・!」」」」」」


「オジサンはすぐに病院に電話して事情を話しておいてください!

僕がアオイを連れて行く・・!」


「よし分かった!アタタタ・・
手配は俺がやっとく!アオイを頼むぞ!!」





「・・・アオイ・・ごめん・・
もうちょとだけ頑張って・・!

僕が必ず守るから・・
アオイも赤ちゃんも僕が守るから!!」



皆に協力して貰って、
アオイを軽トラの助手席に乗せてもらう。



「・・・ウゥゥ・・ウゥゥ・・・・。」


僕が泣いてる場合じゃない・・!

アオイはもっと苦しくて・・
必死に戦ってるんだ・・。

もっと不安で・・もっと・・
赤ちゃんに会いたがってるんだ・・。


「!!!!」


皆が心配そうに見つめる中、
オジサンが必死に電話片手に叫ぶ中、

軽トラックのアクセルを踏み込んだ。

























< 77 / 179 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop