年の差政略結婚~お見合い夫婦は滾る愛を感じ合いたい~
ようやくしゃっくりが止まったのは、ふたりで食卓に着いたときだった。
「すぐに治まってよかったね。しゃっくりを百万回すると死んでしまうらしいから」
「怖いこと言わないでください! そんな子供じみた噂、信じませんよ!」
よほど私のしゃっくりがツボに入ったのか、幸景さんはまだ忍び笑いをしながら私をからかう。
食卓はすっかり和やかな雰囲気に包まれていたけれど、私はひとつの決心をすると手にしていたフォークを置いて、向かいの席に座る彼を見据えた。
「幸景さん……! その、……お願いがあります」
言うのならば、今しかない。幸景さんも本当の気持ちを打ち明けてくれたのだ。私だって彼にわかってもらいたい、本当の思いを。
真剣な様相の私に、彼も一度目をしばたたいたあと笑っていた顔を引きしめる。幸景さんは持っていたグラスを置くと、「言ってごらん」と促した。
私は膝の上でギュッと手を握りしめると、勇気を出してずっと思っていたことを口にした。
「わ、私に、ご飯を作らせてください! それから、掃除と洗濯とアイロンと……できれば、お弁当作りとかも」
私としては密かに、けれどもずっと望んでいたことだったのだけど、彼にとっては予想外のお願いだったのだろうか。目を大きく見開いたまま固まっている。
「確かに、プロの人と比べたら私の家事じゃ至らないかもしれないけど……、でも、家のことがしたいんです。幸景さんのためにご飯を作って、幸景さんのためにお洗濯をして、ふたりのこの家を私の手で綺麗にしたいんです。最初はうまくできないかもしれないけど……でも、基本はできてるって、色んな講師の方に言われました。だから慣れてくればきっと上手にできるようになりますから。ううん、幸景さんが満足できるように必ずなります。だからお願いです、私に家事をやらせてください!」
恥も外聞もなく頼み混んだ。幸景さんはそんな私を見てやっぱり驚いたように固まっていたけれど、やがてジワジワと口角が上がり、それを隠すように口もとに手をあてた。
「それは……大歓迎だけれど……。でも、無理をしなくていいんだよ? 結婚したからといって必ずしも主婦業に囚われる必要はないんだ。もしきみが妻として責任を感じているのだったら――」
「そうじゃなく、私がやりたいんです! 本当はずっとそう思ってました。幸景さんのために家のことをしたいって……。でも、私が未熟だからやらせてもらえないんだって、わかってるから言えなくて……」
私の言葉に幸景さんはさらに驚いたように目を丸くし、「違う」と身を乗り出した。
「璃音が未熟だなんて思ったことはないよ。きみは勘違いしている。……いや、ちゃんと言葉で伝えていなかった僕が悪いね。僕がきみに家事を任せなかったのは、さっきも言ったとおりだ。きみに負担を強いるようなことをして嫌われるのが怖かった。一瞬でも結婚生活に嫌気を差されるのが怖くて、きみには楽しいものだけ与えたかったんだ。だから、きみを未熟だと思って家事を取り上げたわけじゃない」
「……そう、なの……?」
思いも寄らなかった答えに、キョトンとしてしまった。
こういうのをなんと言うのだろう。すれ違い? 空回り? お互いを思い遣りすぎた結果、それぞれ悩む羽目になっていたなんて。
「ふふ……、あはは」
なんだかおかしくなって、声をあげて笑った。幸景さんも眉尻を下げ、つられたように笑い出す。
ふたりでしばらく笑い合ったあと、私は大きく息を吐きだしてからさっぱりとした気持ちで告げた。