癒やしましょう。この針で!!~トリップしても根性で乗り切ります。
プロローグ

 これは夢?……私の前に死んだはずのお祖父ちゃんとお母さんがいる。

「こっちの世界もいいもんだぞ。愛来(あいら)も早くおいで」などとお祖父ちゃんが私に微笑みながらとんでもないことを言ってくる。


 何て不吉なことを……「お祖父ちゃん、あなたはもう死んでいる」って何を私は言っているの!!頭を抱えながら自分に突っ込みをいれる。って言うか、お祖父ちゃんは私に死んであの世に来いと言っているの?……ぞぞぞーっと愛来の背中に寒気が走った。

 青い顔をした私に向かって、今度はお母さんが話しかけてきた。

 ガッツポーズをしながら……。

 何でだろう、お母さんが面白がっているように見える。

 
 気のせいかな?

「愛来、根性よ」

 根性、それはお母さんの口癖だった。

『何でも根性でやれ』

『根性出したら何でも出来る』

『何でも根性』

 ドラマの熱血教師の様な母に思春期の頃は反発をしたこともあったが、この根性理論はあながち間違ってはいなかった。

 勉強やスポーツなど大抵のことは根性で何とかなった。根性で、どうにもならなかった事は恋愛ぐらいではないだろうか?と言っても愛来は全くと言って良いほど恋愛に興味がなかった。

 いや違う、少しは興味があったが、恋愛を楽しむほどの時間が無かった。

 それは愛来の環境のせいでもあったのだが……。

 愛来の父親は愛来が産まれてすぐに亡くなっていて、その頃はお祖父ちゃんとお母さんと三人暮らしだった。

父親はいなかったが経済的に困ることは無かったと思う。それというのも母が看護師をしていたため、貧乏と言うほどのこともなく子供時代を過ごすことが出来ていた。

お祖父ちゃんも鍼灸院を営んでおり、愛来にお小遣いをこっそりくれたりと、普通の家族と変わらない暮らしをしていた。

お祖父ちゃんが亡くなるまでは……。


祖父が亡くなってから母は毎日の様に忙しく働き、愛来を育ててくれた。高校生になり、バイトができるようになった愛来は母の負担になることが嫌で、学生時代はバイトに明け暮れ恋愛どころでは無かったのだった。





チュンっチュンっ……。

優しい鳥達のさえずりで目が覚めた。いつもなら清々しい気持ちで始まる朝が、今日はモチベーションが上がらない。


それはあの夢のせい……。

お祖父ちゃん、こっちの世界に来いって……。

私、もうすぐ死ぬのかな?


まあ、それでもいいか。私は天涯孤独だし、お祖父ちゃんが呼んでるなら……。なんて思ってしまう。

父親のいない私はお祖父ちゃんが大好きで、毎日のように祖父の仕事場である鍼灸院に顔を出していた。鍼灸院に行くと近所のおじちゃんおばちゃん達が、優しく出迎えてくれる。

「愛来ちゃんお帰りなさい。来年小学生だって?大きくなって……」

鍼灸院は近所のおじちゃんおばちゃん達の集まる憩いの場となっていた。この鍼灸院、井上院はいつも賑やかだった。


「懐かしいな……」


愛来はゆっくりとベッドから立ち上がり時計に目を向けると、時計の針は六時三十分を指していた。

今は二月のため日の出が遅い、そのため太陽が顔を出したばかりで、朝明けの状態だ。


愛来は顔を洗い、朝食を軽く摂ると、身支度を整え、毎日の日課である散歩へと出かけた。外の空気は冷たいが澄んでいて気持ちがいい。少しずつだがモチベーションも上がっていく。

散歩のコースは祖父と母の眠るお墓と、その帰りによる神社。時間にして三十分のコースだ。

愛来はお墓に手を合わせる。

女手一つで育ててくれた母が亡くなってもうすぐ一年。

寂しさに慣れたと思っていたけれど、あんな夢を見るくらいだし……寂しさに慣れたふりをしていたんだろうか?

そう言えばお祖父ちゃんはどうして亡くなったんだっけ?

病気?事故?

病院に行った記憶も無ければ、お葬式をした記憶も無い。

愛来が小学生になり、もうすぐ二年生になるとウキウキしていた。そんなある日、母が言ったんだ。

お祖父ちゃんが亡くなったと……。

急にいなくなったお祖父ちゃん。

悲しくて泣く愛来を母は優しく抱きしめてくれた。

それから井上鍼灸院はそのまま残されたが誰も使うこともなく物置と化していた。







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