君の音に近づきたい





「どうし、て……」

久しぶりに会うのに、そんな言葉しか出てこない。言いたいことなんて、山ほどあるのに。

「桐谷に会いに来た」

会いに来たって……。

そこにいる。
確かに、二宮さんが私の目の前にいる。

最後に見た日より、ずっと大人っぽく、そして王子様じゃない二宮さんが――。

「俺は、ショパンと同じにはなりたくないからな」

二宮さんが私の元へと歩いて来る。

「な、何言ってるんですか――」
「必ず、コンクールで優勝して見せる。だから、一番近くで見ていてほしい」

もう涙で滲んで何も見えない。

「桐谷。好きだよ」

なんてことないみたいな声で言う。
だけど、恋しくてたまらなかったその手が、私の頬に触れるから。涙はさらに溢れ出すのだ。

「好きだ」

もう、本当に信じられない。


「何も言わずに、こんなに放っておいたくせに。今頃、突然現れて、勝手なこと――」
「何も言わずに? ちゃんと俺の想いは伝えておいただろ? 俺が桐谷のためだけにショパンを弾いたと言ったんだ。ちゃんと答えを考えなかったのか?」
「そんな曖昧なことだけで、私を縛り付けておくなんて」

私を優しく抱き寄せる。
その胸に、意味をなさない抗議をした。

「――ちゃんと、結果を出して桐谷に会いに来たかった。いろんな人間の反対を押し切って留学したからには、ピアノにすべてを賭けないといけないと思っていた。せめて、コンクールの出場権を獲得してから。それだけのことを果たしてから、桐谷に会いに来たかった」

優しかった手のひらに力が込められて。ぎゅっと抱きしめられる。

――ごめん。

囁くように吐かれた言葉に、結局私は、すべてを許してしまうのだ。
だって、二宮さんのことが好きでたまらないのだから。

「――でも、俺のこと、好きだろ?」

こうなったら、自棄だ。

「そうですよ。どれだけ待たされても、会えないかもしれなくても、ずっと好きでしたよ!」

その胸に頬を押し付ける。

「桐谷――」
「だから。これからは、私のそばにいてください。離れていても、何があってもずっと」
「願うところだ――」

温かい胸が、私から離れて、それと同時にふわっと唇が重なった。

私は、この先も、この人に恋をし続ける。
あの日、その音で私の心を奪った日から。



【完】



< 148 / 148 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:48

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

囚われのシンデレラ【完結】
/著

総文字数/384,389

恋愛(純愛)365ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
ーーーーーーーーーーーーーー 心から愛した人に囚われる。 母の命と引き換えに――。 ーーーーーーーーーーーーーー まだ、夢を追いかけていた音大生の頃。 一度だけ恋をした。 初めての恋は、幸せで甘くて夢見心地の日々だった。 あれから七年――今、あなたは酷く冷たい目を私に向ける。 ただ目の前の毎日を懸命に生きる  進藤あずさ 27歳 × 冷徹に変わってしまった御曹司 西園寺佳孝 30歳 私には大切な思い出でも、 あなたにとっては違うの―――? ー2023.1.12 完結ー *・゜゚・*:.。..。.:*・・*:.。. .。.:*・゜゚・* 鮭ムニエルさま ていこさま りーままさま doramikoさま umenoさま riry2000さま レビュー、ありがとうございます‼️ 感謝の気持ちでいっぱいです🙇‍♀️ 本当に嬉しいです。 《表紙は、表紙メーカーを使用して作成しています》 ※2020年に他サイトにて連載していたものです。
囚われのシンデレラーafter storyー
/著

総文字数/234,249

恋愛(純愛)279ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
あなたの愛は、とびきり甘くて、 少し切ない――。 『囚われのシンデレラ』その後のお話。 〜2023/1/27 完結〜 2023/2/9 おまけも完結 ♪───O*O────♪ 鮭ムニエルさん sadsukgcさん りーままさん ていこさま 美由紀さま さなさま ゆっぴぃ〜さま かりくさま レビューをありがとうございます! 長編にもかかわらずお付き合いくださり、 感謝の気持ちでいっぱいです‼️ ♪♯♭ ※こちらは『囚われのシンデレラ』の続編となります。ネタばれになりますので、まずは本編をお読みになっていただくことをオススメします。
臆病者で何が悪い!
/著

総文字数/421,844

恋愛(オフィスラブ)412ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
*8/28 【after story】の更新を始めました!* 本当はしっかり者でもサバサバ姉御肌でもない。ただの臆病者です――。 就職して4年。 自分は「女として見られないんだ」としっかり認識したら、楽に生きることが出来るようになった。 男も女もない。恋なんて私には必要なし。 それを分かっているし、それでも十分楽しいし。 だから、今日も、明るい笑顔を振りまきます。 ――たとえそんな自分に疲れる時があっても。 もう傷ついたりしたくないから。 何かを期待して落ち込んだりしたくない。 それが、毎日を上手いことこなしていく『大人の術』だもん。 それなのに、どうして、こんなにも胸が痛くなるの――? 外面は元気な姉御肌 「女、捨ててますけど、何か?」 内野沙都(ウチノ サト) × 冷静無愛想エリート同期 「いい加減、その仮面はがしたら?」  生田眞(イクタ マコト) 無愛想な殻の中に、激甘な男が詰まっておりました。 ☆レビューをありがとうございます! 嬉しいです☆ あまべさん micoroさん ルル&キキさん ichiiさん kaooriさん Mallonさん eve2000さん チカチカチカチカさん りすももさん 麻衣麻衣さん きょーちこさん 永遠さん 美由紀さん ※こちらは、他サイトで公開していたものです。 【もしよろしければ、生田眞の姉、生田椿の物語もどうぞ!→『ニセモノの白い椿』】

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop