やわらかな檻
 私の視線につられるようにして慧は傘と自身を順番に見、納得したように呟いた。


「二つも必要ありませんよ。貴女は小さいから一つで済む。格好は、取るものもとりあえず出て来てしまったので――」


 いけませんか、と優しく尋ねられれば否定は出来ない。

 感情が溢れ出てしまいそうで、私は制服のスカートを強く握って俯いた。


「公式設定では病弱、なんでしょう?」
「ええ」

「外出禁止令、出されてるんでしょう?」
「こっそり抜け出てしまいました。でも後々を考えればこの方が良かったんですよ、どうせ学園に取りに行かなければいけない書類がありましたから」


 それは違う。私に罪悪感を覚えさせないための言い訳だ。

 慧は計算して曖昧に言っているが、その書類を取りに来るのは別に今日じゃなくても良かったのだから。


「どうして傘がないって分かったの」
「愛の力です」


 それは嘘だ。誰か忍でも使って調べさせたに決まっている。

 突っ込もうとしてシャツごと慧の腕を掴み、水を含んだその冷たさにぎょっとした。

 視線を外して外を見ると横殴りの雨。激しく音を立てたどしゃぶり。
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