やわらかな檻
 私が言えば叶えてくれそうだけど、万が一を考えて絶対に断れないように。

 例え不可能であっても最初から投げ出されないように。

 そのために計算高い女だと思われても構わない。最悪、慧に誤解されたとしても。


「それでも良いけど――許してあげる代わりに、条件」


 良いでしょう、と媚びと強請りを含ませて両手で腕に抱きついた。

 しかし視線は慧を通り越して、その先に見えた景色にそっと唇を噛む。

 外の全てが次々に打ちつけられる雨粒にぼやけて、くっきりとは見えないでいた。

 後ろに流れていくプラタナス並木も。
 横に並ぶ赤と青、二つの傘と恋人達も。

 私達と外界を隔てるものはこの窓ガラスだけじゃない。


「何年後でも良いわ、迎えに来て。きちんと許可を取ってからね。晴れた日に、いつか二人で外を歩くの」

 
 だからどうか、この小さな願いだけは。

【雨の中、ふたり/終】
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