やわらかな檻
 ――慧のお家はツリー、ないの? かわいそうね。

 可哀想。そう思われるのも仕方ないと思っていた。
 たとえ実際には見下していなかったとしても、そう取れるような言い方に腹も立たなかった。数日後、彼女がそれを持ってくるまでは。


 襖を開けて凍りついた。

「何をしているんですか」


 もうすぐ着くという連絡があったので、先んじて目ぼしい遊び道具を持って来た所だった。

 彼女が遊ぶものは自分が選びたくて、侍女に無理を言って母屋に足を運んでいた。ここ半年で格段に増えた遊び道具から養い親の思惑が察せられるけれど、まあ、あの子が喜ぶなら文句は言わない。

 トランプとオセロと、彼女は名前を読めるだろうか、外国のボードゲームを数種類積んで腕に抱えた。

 そうして離れへ帰って来たら、畳の上に色取り取りの玉が転がっていたのだ。

 どれも手の平に乗るくらいの大きさで、ぶら下げられるように先が丸くなった紐がついている。塗料が塗ってあるのだろうか、蛍光灯を反射して時折輝く。

 同じような物を古い洋画で見たことがあった。これは、オーナメントだ。

 彼女は自室の中央に膝立ちになって、鼻歌でクリスマスソングを鳴らしながら、その身体に対しては随分と大きな箱を開けていた。


「あ、慧。お早うっ!」


 僕の存在に気付いて、ぱっと花が咲くように笑って近付いてくる。その笑顔を久し振りに憎らしく感じた。
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