入れ替わったら彼の愛情をつきつけられました。
無言になった陽菜にチラリと振り返って視線を向ける。


陽菜は走りながらも真剣な表情で何かを考え込んでいる。


美緒はその様子にクスリと笑って、公園を目指した。


「確かに、完璧な大河が相手だから自分も完璧にしなきゃいけないって思ってたかもしれません」


立ち止まったとき、陽菜が息を切らしながら言った。


2人の目の前には公園の石段がある。


10段ほどの階段だけどこれを転がり落ちるのは痛いだろうなぁと、美緒は顔をしかめた。


咄嗟にここを選んだけれど失敗だったかもしれない。


もう少し痛くなさそうな階段を探そう。


そう思っ他時だった。


今度は陽菜が美緒の手を握り締めてきたのだ。


その視線はまっすぐ石段の下へと向けられている。


「美緒さんは大河にわがままを言ったってことですよね?」


聞かれてギクリと頬を引きつらせる。


返事に詰まっていると陽菜が視線を向けてきて「ごめんなさい。私も意地悪をしました」と、言ってきた。


「え?」


美緒は瞬きをして聞き返す。


陽菜はいつでも真っ直ぐで、何でも完璧にできて、優しい人だ。


意地悪をされたことなんてない。


「冷蔵庫の作り置き。あれ、わざとです」


「わざと?」


「はい。私の方が家庭的だと見せ付けて、牽制するためです」
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