離縁するはずが、エリート外科医の溺愛に捕まりました


「はいはーい、あっ君? どうかした?」

『おう、今大丈夫か?』


 電話の向こうは少しざわざわして聞こえる。

 時間的に、仕事終わりとかだろうか。まだ仕事の途中というのも考えられるけど。


「うん、平気だけど」

『そっか。いや、あの後どうなったかなって思って。うまく手続きは踏めたのかと思ってさ』

「あ……」


 離婚を考えていることを相談していて、最後に会った日は今からその申し出に行くからと言っていたのだ。

 無事に離婚の手続きを踏めたかと気になるのは当たり前のこと。


「それが……まだなんだよね」


 そう言うと、電話の向こうからは『えっ?』と訳がわからないという心情がありありとわかる声が返ってくる。


『まだって、なんで』

「うん……」


 なんと説明したらいいのだろう。

 いつも自分のことのように親身になってくれるあっ君に、余計な心配はかけたくない。

 でも、変に嘘はつけない。

< 82 / 145 >

この作品をシェア

pagetop