囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。



 その言葉で、ある事を思い出した。
 セリベーノ伯爵夫妻が朱栞に「息子のお嫁にきてほしい」と言われていた事だ。2人の息子がラファエルだとすると、朱栞はラファエルのお嫁にならないかと言われていたのだ。
 今さらだが、それを知ってしまい、朱栞は一気に恥ずかしくなり顔が赤くなってしまった。伯爵どころか、王子との結婚を勧められたなんて、信じられない思いだった。


 「どうしたの?大丈夫?」
 「な、なんでもありません!その、セリベーノ伯爵と夫人は転移する人を選んでいるのですか?」


 照れ隠しに咄嗟に思い付いた事を質問する。
 それはすぐに考え付いたものだった。
 転移させる力を持つ人物が異世界に居る理由は何か。それを考えると理由は1つしかなかった。転移させる人を選んでいるのだ、という事だ。どうしてそんな事をしたのか。そんな事はわからないが、そうであれば伯爵達がしている事は良い事なのだろうか、と。拉致と同じような行為ではないか、と思ってしまう。


 「先ほど話した通り、私たち人間の文明は止まってしまった。妖精の力を借り、魔法を使うことで楽に生活が出来るからね。だからこそ、いざという時に弱い。災害や事件、そして伝染病など病気などでね。だから、農業に詳しい者や、漁師そして、医師などの知恵を借りるために、転移に協力してもらっていたんだ。もちろん、事前に異世界に行くことを希望するかを聞いてはいるんだ。まぁ、それも………無意味になってしまう事が多いんだけれど」
 「…それはどういう意味ですか?」
 「転移はとてもすごい魔法で、唯一のもので貴重だ。けれど、欠点もある。転移する時に記憶がなくなる事がほとんどなんだ。もちろん、俺の両親は大丈夫だけれど、異世界人は10人に1人だけが記憶をもって転移する事が出来るんだ。それに、運べるのは1年に2人ほど。ここ5年ほどは記憶を残した人はほとんどいない」
 「私は記憶がある。……だから、貴重なんですね」
 「そう、……だね。それだけではないけれどね」



 ラファエルが何かを言い濁しているとわかったけれど、朱栞はそれを深く追求出来なかった。
 今、どんな気持ちでいればいいかわからなかった。



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