『ねこねこ幼女』と王太子
 僕の名は、フランセス・ジーク・スカイヴェンという。
 住んでいるところはスカイヴェン国……そう、名前に『スカイヴェン』が付いている僕は、この国の王族というわけだ。
 しかも、王太子という立場。
 セガルス国王の息子のフランセス王太子。
 何事もなければ(あったら困るんだけど)そのうちフランセス国王となるはずだ。
 今は父と一緒に執務を行い、王太子としての外交も行なっていて、国王の代理としていろいろな公務に顔を出している。世代交代のための足場を、着々と作っているんだ。

 こんな僕だが、正直言って、僕なんかが王位を継いじゃっていいのかな? なんて思う時もあった。

 僕には兄がいる。兄といっても双子なのだから、同じ日に生まれて同じように育ってきたから、本来ならば上だ下だと気にするような関係ではない。
 でも、順番からいくと兄のカルディフェンが王太子になるはずだったし、途中まではその予定だった。

 ルディ兄さ……じゃなくて兄上(もう子どもじゃないから、ルディ兄さんと呼ぶのはあまりよくないんだよね)は、一言で言うと、弟の僕がこんなことを言うと変だと思われるかもしれないけれど、懐の深い、いい男なんだよね。
 国の頂点に立つのにふさわしい、王者の風格がある……そう、歳を取った今でもちょっと怖い、前国王のギルバートおじいさまに似ているかな?

 運動のセンスは飛び抜けていて、めちゃくちゃ強いし、頭もいい。子どもの頃はやんちゃで、よくおじいさまにゲンコツをもらっていたけど、それでもめげずに幼馴染みの黒豹と脱走して小さな冒険をしてくるところが、子ども心にかっこよく見えて、ちょっぴり悔しかったものだ。

 兄上が国王で、僕はサポートかな、なんて未来を考えていたら……あれは、僕たちの11歳の誕生日だった。あまりにも突然、てっきり狼だと思っていた兄が、こともあろうに妖精獣に変化してしまったんだ。

「フラン、すまない。俺は王位を継ぐことができない……」

 兄上……ルディ兄さんが、辛そうな顔で僕に言った。

「すべてをフランに丸投げなんてことはしたくないけれど……俺はフェンリルだった。番に出会えない可能性が高い俺は、この国の王となることは難しいんだ。だから、頼む」

「兄さ……兄上」

「そんなかしこまった呼び方をしなくてもいい。これからは、フランが王太子になるからな、次期国王陛下だ」

 どう見ても、王位にふさわしいのは兄の方なのに。
 けれど、こればかりはどうしようもなかった。

「本当にすまない。俺は騎士団に入ろうと思う。そして腕を磨き、この国を守っていきたい」

「そう、なんだ」

「これからはフランに、次期国王としての勉強やら社交やら、いろんな面倒なことをしてもらわなければならない」

 え?

「いいか、俺は遊ぶのではない。より一層身体を鍛え、武の道を進もうと真剣に考えている」

「あのさ、兄さん」

「どうした?」

「尻尾、なんで、ものすごく振っているの?」

「……」

 うちの兄上は、自分が国王にならないことを本気で喜んでいたよ、やれやれ。

 その日から、兄上は常に肩から上を狼の姿で過ごすようになった。第一王子だが王位に就かない、ということを表したいらしい。
 筋肉がしっかりついて、たくましい身体付きをしている上、同じ顔をしている僕が言うのもなんだけど、銀色に輝く髪にアイスブルーの瞳をした兄上はとてもハンサムなんだ。
 当然、女性にもモテる。

 でも、フェンリルである兄は恋をすることがないんだ。
 もしも、とても可愛いお姫さまが兄さんに恋焦がれたとしても、番に定められたただひとりの女性以外に、決して応えることはできない。
 だから、政略結婚なんてできない。

 兄の人間としての姿を見ることができなくなって、母上は嘆いていたけれど、兄上の気持ちはわかるような気がする。
 ひとりだけ違う、というのは、とても寂しいだろう。

 ちなみに、兄上が狼の頭で過ごすようになってから、男性たちに「狼殿下は本当にカッコいいな!」「強くて精悍で、憧れるなあ……」とモテるようになったことは……僕の胸にしまって、このまま墓場まで持っていこうと思うよ。

 さて、そんな兄上は、今は子育てをがんばっているようだ。最初にそれを耳にした時は驚いたけれど、兄上にすっかり懐いている子猫のエリナを見た時には、なんだか納得をしてしまった。

 兄上の眼が、とても優しかったんだ。

 そして、子猫のエリナはすごく可愛い。
 なんか一生懸命にやってるかと思うと、見たことのないような美味しい食べ物を作っている。
 そして、うにゃうにゃ鳴きながら食べている。

 兄上が幸せそうな様子なので、僕も嬉しい。
 そして、エリナにフランお兄ちゃんと呼んでもらえて、嬉しい。
 ふふっ、弟だった僕が、お兄ちゃんになったよ。
 やったね!
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