その行為は秘匿
学校が終わってから、私と郁弥はバスに乗って中央病院へ向かった。
「すみません、精神科は何階ですか?」
「4階でございます。」
落ち着いた声でナースに言われ、私達は4階に上がった。
「失礼します。」
診察室に入ると、黒縁の眼鏡をかけた痩せ型の医者が座っていた。
「こんにちは、今日は相談ということでしたが、何か不安なことなどですか?」
「お時間取っていただき、ありがとうございます。実は、ある事件について調べていまして。」
その医者は、田中と言った。ずっとこの病院に勤めているようで、2人のことも診ていたという。
「私も、その事件のことはよく覚えています。しかし申し訳ない。あまり詳しいことは私もよく分からないのです。何か知っていればお話しようと思ったのですが…。その頃はとても忙しかったものですから。2人はなぜこの事件を?」
「図書室で事件のことが書かれたノートを見つけて。解決したいんです、どうしても。」
「そういうことだったんですか。」
しばしの沈黙。しかしすぐに田中が口を開く。
「そういば、F高校の校舎は大分古いですね。あれじゃあ暗くなったらとても危ないでしょう。風通しがいいから、夏はいいかもしれませんが。」
すると、さっきからずっと田中をじっと見つめていた郁弥が急に口を開いた。
「ありがとうございました。今日は失礼します。」
「もう帰ってしまうんですか?もう少しゆっくりしていけばいいのに。」
「いえ、用事がありますので。行くぞ。」
「え、ありがとうございました。」
「またいつでも。」
私と郁弥は、足早に診察室を出た。
「ちょっと、どうしたの?」
「話は後で。とりあえずここを出るぞ。」
何か嫌な予感がした。後ろで誰かの足音が静かに聞こえた。
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