溺愛王子は地味子ちゃんを甘く誘惑する。

乃愛は布団を口元まで上げた。


「でも、嬉しかった」


そして、恥ずかしそうに視線を俺に合わせる。


久しぶりに乃愛と目が合った。それがこんなにも嬉しいなんて。


「話してくれてありがとう」


ほっとしたのもつかの間、ひとつ疑問が生まれた。


「俺の話、どこまで覚えてる?」


告白したのに、それに触れず何ごともなかったように俺と接するということは……。


「えーっと……音楽室で、河村さんに告白された話の辺り……かな」


…………まじか。やっぱり俺の告白は幻になったってわけか。


一瞬めまいがしたが……。


やっぱり告白は、乃愛の目を見てやり直せと言われているのだと思った。


「そっか」


「ごめんね、途中で倒れちゃって」


「そんなの全然いいよ。てか、話はそこまでだったから」


「それならよかった」


今はただ、にっこり微笑むその顔に安心して、俺は乃愛の頭を優しくなでた。
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