極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です



 耳を澄ます。

 微かだけど。
 隼理くんの声が聞こえてくる。

 内容は……。
『そのことは、今日の夜にでも』
『じゃあ、また夜に』


 全て聞こえたわけではない。
 けれど。
 肝心なことは聞こえた……と思う。

『今日の夜』

 その情報は。
 きっと、ものすごく重要なもの。


 確証はないけれど。
 今日の夜。
 隼理くんは美輝さんと会うということだろう。

 夜にした理由は。
 それは、私が夕方には隼理くんの部屋を出て家に帰るから。

 だから私がいなくなる夜に、隼理くんは美輝さんと会うのだろう。


 ……って。
 なんで私は。
 こんなことを考えているのだろう。

 本当なら。
 こんなことは全く考えたくない。

 でも。
 そう考えてしまうような状況が。
 嫌というくらいにそろっている。

 ①美輝さんからの着信。
 ②美輝さんの名前を見た隼理くんが動揺している。
 ③私がいる部屋とは違う部屋で隠れるように折り返し電話をした。
 ④今日の夜、美輝さんと会う。

 これだけ状況がそろっているのに。
 何も考えないということはできない。


 頭だけではない。
 心の中もいろいろな感情が襲ってくる。

 不安。
 心配。
 ショック。

 それらの感情が。
 ゲリラ豪雨のように降り注がれて。
 心の中が大洪水になっている。

 大洪水になり過ぎて、心のタンクから溢れ出しそうになる。


 って。
 もう溢れ出しているのかもしれない。

 その証拠に。
 私の身体は。
 力がスーッと抜け落ちたようになってしまっている。

 身体に全く力が入らない。
 ドアに耳をくっつけているけれど。
 その体勢すら難しくなってきた。

 力が抜けたまま。
 ドアから耳を離す。

 身体が思うように動かないけれど。
 いつまでも寝室のドアの前にいると。
 隼理くんが出てきたとき、隼理くんに不審に思われてしまう。

 だから少しでも早く。
 ここから立ち去らないと。


 そう思いながら。
 なかなか動くことができない身体を奮い立たせるように動かし歩きかけた。


“ガチャッ”


< 59 / 148 >

この作品をシェア

pagetop