また逢う日まで、さよならは言わないで。



私は、カウンターの寄り掛かりお母さんが手際よく料理するのを見つめる。



「直哉のお母さんたちって、ずっと向こうにいるのかな?」


「さあ、どうかしらね。直哉君ももう社会人になるものね」


「え、お母さん、直哉が大学行かないこと知ってたの?」


「ええ、やりたいことがあるんですって」



お母さんは、ケチャップライスをさっき焼いていた卵で丁寧にくるみながら、そう話す。


私もそのことは知っていると思っていたようだ。



「お母さんには話してたんだ……」



私よりも早く、お母さんに直哉がそんな大事な話をしていたということに、少しショックを受ける私。



お母さんが、今オムライスの重要局面らしく私がショックを受けていることなど、気づいていない。



「私も、どこで何をするのかは知らないけど、ここから引っ越すとは言っていたわね」


「え!」



お母さんは、フライパンの上できれいに卵のドレスが着せられたオムライスを、皿の上に移した。


そして、満足そうに微笑む。



私はというと、ただただそれ以上何も言えずに、開いた口がふさがらなかった。



「……直哉、遠くに行くの?」



やっと絞り出した言葉は、小さかった。



「あら、來花聞いてなかったの?」



お母さんは、私の前にさっきフライパンの上で踊っていたオムライスを出す。



「うん」


「私も聞いたの最近だから、近々直哉君あなたにも言う気だったんじゃないかしら……って、どこ行くの!」



気づいたら、私はお母さんに背を向け、走り出していた。



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