誘惑じょうずな先輩。


「それに香田さん、慣れてます、みたいな顔してるから、」



万里先輩にも、いつか言われた言葉。

でも、なんでか、万里先輩は良かったのに。




それは、先輩に名前のわからない特別な感情を持っているせいで。


夏川くんの言い方は、どこか哀れんでるような、バカにしているような、そんな気がして。



……わたし、先輩の遊び相手じゃ、たぶんないもん。

先輩だって、ちがうって、言ってたもん……。





「そ、んなんじゃないから……っ!!」



自分でもびっくりするくらい、思ったよりも大きい声が出て、
そのあと、バンッと机を叩いたあと、教室を飛び出した。




__ 空になったとなりの席を見つめ、夏川くんは呟いていたらしい。



「……なんだ、気、強ぇの」





ククって笑って、妖艶な瞳を光らせていたって。








.






怒って教室を出たのはいいものの……。


いまは休み時間だし、そのうち教室に戻らなければいけないわけで。



「はぁ……、」



頭にのぼっていた血は冷めはじめ、もはや、夏川くんに申し訳ないことした、と反省中。




たいして話したことない女子との世間話に、あんなに大きい声でキレられたら面倒くさいやつだと思うよね……。






< 59 / 303 >

この作品をシェア

pagetop