幼馴染からの抜け出し方

「蓮見先輩……?」


 ふと可愛らしい声が聞こえた。由貴ちゃんの傘の中に入っている女性の声だ。由貴ちゃんの腕にぴったりと寄り添っている彼女は、由貴ちゃんがさしている傘のおかげで雨に一滴も濡れていない。


 私が、その傘の中に入りたい。彼女のように由貴ちゃんにぴったりとくっついて――。


「由貴ちゃん。私っ……」



 ――――あなたが好きです。



 そう言いかけて、言葉を止めた。

 由貴ちゃんの隣にいる女性と目が合って続きを言えなくなった。

 私は、由貴ちゃんに掴まれていないほうの手を目元へ持っていく。涙なのか雨なのかわからない雫をごしごしとぬぐった。

 それから、私の手首を掴んだままの由貴ちゃんの手をそっと振り払う。


「傘なら買うから私は大丈夫。呼び止めたりしてごめんね」


 早口で言葉を返すと、私は雨の中を走り出した。


 最低だ、私。また逃げてるよ……。


 そんなことを思いながら、でも、足は止まらずに走り続けた。


< 73 / 82 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop