弔いの鐘をきけ
「一緒に連れてって……!」
キーンと脳内をつんざくような頭痛とびっしょりとした感覚に顔をしかめ、ニコールは身体を起こす。現実を乖離するような白い天井が迫りくるかのように瞳に映っている。
「――夢」
ハッと我に却ってベッドサイドを見れば、焦げ茶色の時計の針は正午に差し掛かろうとしている。四角い窓から降り注ぐ陽光に目覚めたばかりの顔を照らされ、ニコールは目を眇めつつ、窓際へ身体を寄せる。
五階の窓から外を見下ろせば、時間に追われるビジネスマンや学生たちがアリのようにあくせく蠢く様子がうかがえる。ふだんならニコールもそのなかに混じって働いているはずだ。
けれどいまは無菌状態にも等しい白いベッドのなかでじっとしていることしか許されない。脱走しようものならジェシカに泣かれてしまう。あの稚(いとけな)い少女に泣かれるのは苦手だ。幼いころの自分を見ているみたいで。
「二コー、起きたの? 身体は?」
「ジェシカ。レディの部屋に入る前にはちゃんとノックしなさいって言ってるでしょう?」
勝手に扉を開けてすたすたと入り込むジェシカをニコールは咎めるが、少女は気にすることなく言葉をつづける。
「よかった、起きあがれるんだね! じゃあこれから準備しよう、お医者さまの許可もらって」
心底嬉しそうに微笑むジェシカに、ニコールは毒気を抜かれ、呆然とする。
「……ジェシカ?」