弔いの鐘をきけ
「だって、ずっとベッドのなかにいるのって退屈でしょう? タチアナのところで新しい本を調達してきましょ」
当り前のように提案され、ニコールはああと想い起こす。そういえば今日は月に一度の出版日。タチアナ書房でも何冊か新刊が出されるはずだ……
「ニコが来たらみんなぜったい喜ぶよ、驚かせちゃいましょうよ!」
――そうか、自分がいなくても、彼らは相変わらず仕事をつづけてくれているのか。
ジェシカのはしゃぐ声が、悪い夢の残滓を引きはがしていく。あの頃のひとり取り残された自分はここにはいない。ベッドのなかで怯えて震えているだけの幼子はここにはいない。ジェシカがいるのだ、自分はまだ、生きなくてはならない。
「そうね。ジェシカ、着替えと車椅子をお願いしてもいいかしら?」
その前に食事ですとジェシカにバターロールとミルクを渡され、ニコールは素直に口に入れる。どちらもすこししか口に入れられなかったが、味気ない点滴よりも食べたという気分になる。そのまま薬も飲むと、若干の吐き気が残ったものの、寝起きの頭痛と気だるさは引っ込んだ。