こんなにも愛しているのに〜すれ違う夫婦〜

樹の思い

重い気持ちのまま出社した。
斉木は会社を休んでいた。
正直
顔をあわせずにすんで
ほっとしている卑怯な自分がいた。

「室長、斉木さんのお休みは私は関係ないですからね。」
「どういうことだ。」
「以前私が仕事上のことで、ちょっと厳しく言った次の日に休まれて、
室長が私に対応をもっと考えてやれって、注意されましたよね。」

そう言えば事務補佐長の加藤が斉木を叱責して、
非常階段で泣いていた斉木を見かけたのが最初だった。
すっかりと自信をなくしていた斉木をフォローし、
加藤に対応をもっと穏やかにできないかと、言ったのだった。

以来加藤からの叱責はなくなったようだが、
仕事のフォローは最低限しかしてもらえないようだった。
その代わりに俺が斉木を自分の補佐に廻したんだ。

「いえ、室長のお気に入りの子が急な連絡でお休みなので、
いろうろと勘繰っていらっしゃらないかなと、思って。」
「加藤、言い過ぎだ!」

主任で加藤と同期の三谷がたしなめる。

「室長、ここに私と三谷くんしかいないから言いますけど、
室長と斉木さんは距離が近すぎます。
きっとみんなもそう思っています。
室長が彼女を気にかけていらっしゃるのはわかります。部下として。
でも
彼女は室長のことが上司という以上に、好きなはずです。
室長が勘違いをさせているんですよ。
私が彼女に厳しくするのは、頑張って努力もせずに諦めるからなんです。
どうせ私はできないって。
室長の下についていた時は、あんなに頑張っていたのに、外された途端
意欲をなくしたようで、私は相当頭にきているんですが。」

俺は言葉もでなかった。
そうだ。
上司と部下のラインを逸脱させたのは自分だ。
自分の事務補佐につけ、仕事ができたらご褒美と称し、食事に連れて行き、
自分の中ではそれだけだったのに。

「室長があの彼女のことを思って、斉木さんも二の舞にならないようにと
気にかけていらっしゃるんでしょうが、あの子と斉木さんとは全く別人ですからね。」

「そうだな。。。
ありがとう加藤。言いづらいことを言ってもらって。」

2人から離れ
ちょっと頭を冷やしに行こうと思った俺の背に
尚も加藤が言った。

「彼女、女としてもあざといところあると思います。」

それには返事をしないまま部屋をでた。
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