人見知りな私が、悪役令嬢? しかも気づかずフェードアウトしたら、今度は聖女と呼ばれています!

同室の方々と引き合わされました【前】

 ここに来るまでに、ラウルさんから献身者――寄付をし、祈りや労働はするがその気になれば、自分の意思で修道院を後に出来る者数人いるとは聞いていた。そして部屋も、個室だとは思っていなかったので『こういう可能性』も想定していた。

「可愛い子は、どんな格好をしていても可愛いものだ……ただ綺麗な髪だから、ベールで隠すのは勿体ないな」
「同感ですけど、そこは決まりですし……ってか、おチビちゃん? 確かに拾い子なら、あんたくらいの子もいるけど。世を儚むには、すこぉし早すぎない?」

 口々に言いながら、同室の二人は私に修道服を着せ(白い貫頭衣を着て黒い肩掛けをかけた)背の半ばまである黒髪をお団子ヘアにしてくれた。その上に、院長様より丈の短いベール(院長様のは背中までだが、私は肩にかかるくらい)を被って完成である。
 一人は、口調こそ男性的だが見た目は上品な初老の貴婦人で。
 もう一人は十六歳くらいの、唇や胸元が色っぽい美少女だ。
 二人は格好こそ修道服だが、私同様髪は長いままでベールも短い。事前に声をかけてくれていたのか院長との対面後、連れられてきたこの部屋で引き合わされた。

「バルト伯爵家のアントワーヌだ。主人亡き後、息子が成人するまで家を切り盛りして……余生は神に仕えようと思ったのだが、家族から反対されてな。折衷案として、献身者としてここにいる」
「バルト家は騎士の家でね。アントワーヌ様は凛々しい近衛騎士として、ご令嬢から人気が高かったんですって……あ、私はナヴァール侯爵家の寡婦、ビアンカよ。元々は男爵令嬢だったけど家の為にって、父親より年上の爺さんと結婚させられたら、初夜の前にポックリ逝っちゃってー。次の政略結婚が決まるまで、変な虫がつかないように待機中って感じ。あ、家柄的にはともかく一応ここの先輩だから、敬語使えとか言わないでよね?」
「はい。セルダ侯爵家の娘、イザベルです。よろしくお願いします」

 なかなかに濃い二人だ。でも、とりあえず現世の私(イザベル)に意地悪をしてこなければ、それでいい。
 内心で呟きつつ挨拶をすると、二人の視線がこちらへと向けられた。

「「で?」」
「……えっ?」
「これから、同じ部屋で暮らすからね……話せる範囲でいいから、君がここに来た理由を聞かせて貰えないかな?」
「知っていれば、何かあれば対処出来るし? まあ、ここにいると外の話に疎くなるからね。情報収集したいって下心もある訳」

 二人の言葉に、ふむ、と私は考えた。
 確かに、数日どころではなく一緒に暮らすのだ。それにさっき言われた通り、幼女が一人で修道院に来るのはツッコミどころ満載だろう。打ち解ける意味でも、話しておいた方が良いと思った。

(とは言え、お義母様と異母妹については良さそうな人達だから、もしもの話はしないようにして……下手にお父様をクズ呼ばわりして、悪印象を与えるのも何だし。端的に、事実だけを伝えれば良いわよね)

 そう結論付けると、私は二人を見上げて口を開いた。
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