人見知りな私が、悪役令嬢? しかも気づかずフェードアウトしたら、今度は聖女と呼ばれています!

私と私

 父親の関心を引く為、あえて母娘を拒絶しようとした現世の私(イザベル)の前に立った。

「……あ、これ、ネット小説で読んだやつ?」 
「どうして……何で、邪魔したの?」

 そして、前世の私(気合いの関係か最期のパジャマ姿じゃなく、出勤時のアンサンブルと黒のスキニーだった)が呟くと、いつの間にか後ろにいた現世の私(イザベル)がそう言って泣き出した。
 うん、泣き顔も綺麗とか完璧。ただ、今まで引っ込んでたのに文句言われてもねぇ?

(……あー、でもこんな小さな子供なら、仕方ないかな? でも、やらかそうとした理由は解ったけど、だからって私まで嫌われたくないし)

 今、私がいるのはさっきまでの部屋じゃない。全体的に白くてぼんやりだし、何より前世と現世の私が二人同時に存在しているからね。おそらく、精神世界みたいなものなんだろう。
 そして前世の私に、今までのイザベルの記憶が追加更新された。
 だからさっきの回想は、前世の私が咀嚼し、理解する為の処理だ。実際は、いくら賢くても幼女だから、周囲から愛されない理由が解らず。解らないながらも、自分が悪いのだと思い込んでいた。
 ……でも、絶望の末にわざと父親に嫌われて、関心を引こうとしたのを私が邪魔した訳で。

「出ていったら、お父さまはすぐ私のことを忘れてしまう……いえ、私だけじゃなくお母さまのことまで……」
「……本当に、そう思う?」
「…………」

 泣きながら文句を言う現世の私(イザベル)に、私は尋ねた。途端に黙ったところを見ると、幼いながらに理解しているらしい――亡くなった途端に黙って妻子を連れてくる辺り、現世母にも現世の私(イザベル)にも興味関心はないと思われる。そんな薄情な相手に、わざと憎まれ口を叩いて嫌われるなんて冗談じゃない。むしろ、はっきりきっぱり縁を切りたい。

「それに私、自分が悪くないのに勝手に嫌われるのは嫌……せっかく生まれ変わったのに」
「……あなた、私?」
「うん。賢いね」

 今の状況や、記憶を共有している辺りで現世の私(イザベル)は、生まれ変わり云々も理解したらしい。思わず頭を撫でようとすると、後退られて逃げられた。そして、大きな琥珀色の瞳で睨まれる。

「……だから、勝手に出ていくなんて言ったの?」
「うん、そう。あと、あなたも一緒に連れていくから」
「嫌よ……どこにも行きたくない。どこに行っても、私を好きになる人なんていないわ……」

 距離を置き拳を握って、現世の私(イザベル)はそう訴える。
 そんな彼女に、しばし考えていると――精神世界だからなのか、今度は私の前世を現世の私(イザベル)にも見られるようになった。
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