人見知りな私が、悪役令嬢? しかも気づかずフェードアウトしたら、今度は聖女と呼ばれています!

ゲームとのズレと、計画通り

ヒロイン視点



 わたし、ヒロイン――いや、認めよう。イザベル様のように、今はわたしがエマだ。
 そんなわたしは二か月前、イザベル様と話して別れた後、家に戻って母親の元へと向かった。そして部屋で二人きりになったところで、わたしは母親に切り出した。

「実はわたし、イザベル様に会ってきたの……殿下との婚約者候補を、代わって貰う為に」
「エマ!?」

 わたしの言葉に、母であるミアが真っ青になる。王宮での勉強会のことを、婚約者確定と思い父親が喜んでいたのを知っているからだ。
 だけど、本当の理由(ユリウス様のトラウマに触れないように)は話せないが、別の理由なら母を納得させられることをわたしは知っている。

「……いくら今が侯爵令嬢でも、わたしは元々平民だもの」
「エマ……」

 母に、父への恋愛感情がないとは言わない。あるからこそ、わたしが生まれたんだから。
 だけど母は平民で、父は貴族だ。
 食堂で働いていた母を、父が見初めて用意した別宅に住ませた。そして今は、正妻の死後に本宅へと招かれて最低限の教育も施されたけれど――それでも、いくら貴族並みの美人でも母は善良で小心な平民なのだ。それ故、この屋敷でも父から誘われない限り極力、部屋に閉じこもって目立たないように暮らしている。
 そんな母に、平民故の引け目を感じたと伝えれば共感するし、納得される。だが父にも逆らえないし、とオロオロする母にわたしは言った。

「でも、イザベル様に言われたの。解っていて候補に選ばれたのなら、光属性もだろうけど、わたしが努力したからだろうって……わたしは、その期待に応えるべきだって」
「まぁ……エマと同じ年なのに、よく出来たお嬢様なのね」
「そっ……ええ、本当に」

 推しが褒められた喜びに、つい「そうなの! イザベル様って最の高でしょう!?」と力説しそうになり、何とかわたしは堪えた。そして、本題に入ることにした。

「……母さん。わたし、もっとイザベル様とお話ししたい」
「えっ?」
「実はね? イザベル様が修道院で、貴族平民問わずに悩み相談を始めるんだって」
「イザベル様が?」
「もちろん、毎日は無理だけど……月一くらいでいいから、イザベル様に話を聞いてほしいの。母さん、協力してくれない?」
「……私、が?」

 わたしの言葉に、戸惑いつつも耳を傾けてくれる母に内心、感謝しつつわたしはイザベル様と打ち合わせて決めたことを話し始めた。



「……慰問を?」
「ええ。貴族の夫人の嗜みと聞きました……ジェームス様、駄目でしょうか?」
「まさか! むしろ、女主人の役割を果たそうとしてくれて嬉しいよ」
「ありがとうございます……微力ながら、エマと二人で頑張ります」

 夕食の場で母が切り出すと、予想通り父は賛成してくれた。父なりに、母が家から出ようとしないのを気にしていたのだろう。嬉しさのあまり『どこに』と言うのを聞かないのも、思った通りだ。

(計画通り)

 こっそり、前世のネタ(某漫画の超悪人面での笑みと台詞)をする。ちなみに馬車は、御者を務めているローラ(イザベル様贔屓の侍女)の夫にお願いしたので、行き先がバレる可能性は低い。
 ……こうしてわたしは月一回、イザベル様のいる修道院に行けることになったのである。
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