精霊たちのメサイア

43.5【閑話】サミュエル視点

43.5【閑話】サミュエル視点


レイラ嬢との謁見が終わり、執務室へと戻り椅子に腰掛けた途端ドッと疲れに襲われた。

長年の私の秘書官を務めてくれているセストから紅茶を受け取り、一口飲むと大きなため息が漏れる。思い切り背もたれに寄りかかり、またもやため息が溢れた。


「その様な陛下を見るのはいつぶりでしょうか」

「……ヴァレリー侯爵とエタンが言っていた事は本当の様だ」

「絆の事でしょうか」

「あぁ、そうだ」


気づけば胸元をぎゅっと握っていた。

レイラ嬢を見るたびに胸に何かがつかえているような、締め付けられる様な感覚がしていた。今回もその胸のなんとも言えない窮屈感に落ち着かない気持ちになる。

確かに感じた絆。それは世界が望んだ絆だが、今更その絆に従うつもりはない。そう思っているのはレイラ嬢も同じ。


「レイラ様とお会いになるのは極力控えた方がよろしい様ですね」

「あぁ、必要最低限関わらない様にする。 私だけではなく、レイラ嬢もそう望んでいる様だからな」

「ローゼンハイム聖下とはいつお会いになりますか?」

「都合がいい時に王宮に来てほしいと直ぐに手紙を送ってくれ」

「畏まりました」


セストが出ていき、部屋に1人になる。

背もたれに首を乗せ、天を仰ぐ。

絆の話を聞いて、正直色々な事が腑に落ちた。王妃を迎え、側室を迎える度に襲われていた自己嫌悪。愛がなんなのかさえ分からなかった。愛しいと思う感情に比例するかの様に誰に対してなのか分からない罪悪感が膨らんでいった。自分がろくでもない人間の様に思えた。

レイラ嬢を初めて見た時、ずっとかかっていた靄が晴れる様な感覚に襲われた。それは恐ろしく心地よく、同時に恐ろしかった。

絆を望む者と結び直せると言っていた。その相手……望む者はいるが、望んでいいのかさえ分からない。世界が決めた絆のせいとはいえ、“あぁ、そうだったのか”と簡単に受け入れられないのが心。そうは思うが、半ば諦めていた想いに火がついたのもまた事実。今までの行いを無かったことにはできない。だが近付けるかもしれない。

捨てきれない思いを胸に執務室を後にした。






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