精霊たちのメサイア

50.気持ちの正体


ぐっすり眠っているラウを我が子のように抱っこしてフワフワと飛んでいるフレイム。今ラウが目を覚ましたら驚きで固まってしまうだろう。


「ふふっ」


想像したらおかしくなってしまった。


「どうした?」

「あ、すみません。 ラウは今起きたらきっとビックリするだろうなと思ったらおかしくて」


今のラウとフレイムは私以外には見えない。だからどういう状況なのかアレクサンダー様に説明した。するとアレクサンダー様も頬を緩めた。

ビルと別れて帰る私を馬車まで送るとアレクサンダー様が言って下さり、隣を歩くアレクサンダー様。初めて会った時は綺麗な顔のせいか冷たそうな印象を受けたけど、知れば知るほど思いやりのある方だなと思うようになった。


「たくさんのパーティーへの招待と婚約の申し込みがあると聞いたが、困ってはいないか?」


そんな話しがアレクサンダー様の耳にまで!?


「アロイスお兄様が上手くお断りしてくださっているので、私よりアロイスお兄様の方が困っているかもしれません」

「ヴァレリー侯爵ならそういう事の対応には慣れているだろうから大丈夫だろう。 それより、婚約はカストロ辺境伯家の御子息と結ぶとばかり思っていたが違うのか?」

「セオドアさん…ですか? セオドアさんとはそういう関係ではありません……」


気分が沈んでいく。

アレクサンダー様に対して自分がどう思っていたのか、この一瞬で気付かされた。私はこの人に惹かれている。一人の男性として意識しているんだって……。

相手は一国の王子様。そんな彼が私に良くしてくれるのはきっとお母様の解毒をしたから。そしてメサイアだから。


「アレクサンダー様も婚約者はいらっしゃらないですよね?」

「早く誰かと婚約を結べと周りからは煩く言われるが、そう簡単に決められる事ではないからな」

「そう、ですよね……っ!?」


俯いてしまった私の顔を突然ラウが覗き込んできた。前より少し大きくなった羽で一生懸命飛んでいるラウを抱き止めた。
小さな手が頬に触れ、キラキラした大きな瞳と目があった。


「だい、じょぶ?」


ラウは私のマイナスな気持ちに凄く敏感だ。闇の精霊だからだろうか?


「ふふっ、大丈夫よ。 だから寝てていいよ」


いつものようにコテっと肩に頭を置くと、すぐにまた眠りについてしまった。

闇の精霊は希少な存在で悪い人に見つかれば捕まえられて売られてしまうこともあるのだとか。その話をきいてラウと契約結ぶ事を決めた。契約を結んでいれば万が一ラウに何かあったとしても私が異変に気付いてあげられる。


「ラウはよく寝るな」

「そうなんです。 ちゃんと起きてるのはお菓子を食べてる時くらいな気がします」


意外と食いしん坊なのよね。

ラウのおかげで話の方向が変わってホッとした。


「この子は今力を蓄えてるところなの。 レイラという大きな力を持ったメサイアのそばにいる事で、他の精霊よりも成長が早いのよ。 その成長に身体と心が追いつこうと必死になってる。 眠る事でバランスを取ってるわ」


ラウがそんな状態だなんてぜんぜん知らなかった。アルファはいつも自分からは何も言ってくれないから。フレイムの話はいつもわかりやすい。


「アルファも教えてくれればいいのに……」


そうポロッと零すと、フレイムは私の頭をポンポンと宥めるように叩いた。


「精霊王は見守る事が役目。 だから困っていれば駆けつけてくれるだろう?」

「そうね、確かにいつも困っていると来てくれるわ」

「レイラには自分からどんどん色んな事に興味を持ってほしいのよ。 この世界を知り、人を知り、己の力を知ってほしい。 そう思ってるの」

「レイラ嬢は随分と精霊王に愛されているのだな」

「そうさ、だからレイラを悲しませる事があればもの凄い形相で乗り込んでくるだろうね」


何故かアレクサンダー様がフレイムに怒られているような構図になり、笑ってしまった。



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