推しを愛でるモブに徹しようと思ったのに、M属性の推し課長が私に迫ってくるんです!
午前八時五〇分 西浦さん視点
出会いから数ヶ月後の二人
 

「おはようございます、浮田課長」
 
「おはよう、西浦さん」


**** 午前八時五〇分 西浦さん視点 ****

 
 浮田課長は席に着いた。今日は薄い水色のワイシャツに紺色のネクタイ。一見地味そうだが、あのネクタイは高級ブランドのアレだ。私は横目でチラリと確認する。今日もシワひとつない綺麗なスーツで、髪型はふんわり猫毛だが寝癖なんか無い。スンスンと鼻を動かせばふんわりと甘い香水が匂う。それは決して主張し過ぎない、完璧な塩梅だった。

 
 浮田課長は四〇歳の独身らしい。大手の商社の課長なのだから給料は良いはず。しかも顔はかなりの男前で高身長。性格は優しくふんわり系。これだけの高スペックでも出しゃばらず、淡々と仕事をこなす姿にノックアウトされる女子社員は多い。普通なら結婚している筈なのに、まだ独身市場にいらっしゃる。そのせいで影では同性愛者なのかと噂が回っているが、それは無いと私は見ている。

 
 理由は……。
 
 
「浮田課長、課長から見て二時の方向の営業二部二課の佐々木さんが、熱視線を送ってますよ。多分、今日のランチに誘われるんじゃないですかね……」

 
 私の発言を聞いた浮田課長は、瞬時に顔を真っ赤にしてスッと下を向く。そして小声で「本当に無理……」と言うのだ。それは女性が嫌だからではなく、女性を前にすると極度にあがってしまうからだった。

 
「西浦さん……、助けて!」

 
 赤い顔でウサギのように少し震えている浮田課長は何だか可愛い。私はニマニマしそうになる顔を抑えて、「了解しました」と眼鏡を人差し指で持ち上げる仕草をしながら真顔で伝える。

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