推しを愛でるモブに徹しようと思ったのに、M属性の推し課長が私に迫ってくるんです!
 大手の商社に就職後、俺は大阪支社勤務になった。


 ある日の飲み会の後に、酔っ払った俺と同僚達は、SMバーへと興味本位で入店する。きっと学生時代に押さえつけられていた欲望が、少し自由にできるお金が増えたことで爆発したのかもしれない。俺の何かが別な方へと開花していった。


 SMバーは俺の心のオアシスになった。同僚達は一回だけ行ったらもう行かなくなったが、俺は何度も通い店の子とも仲良くなったのだ。

 
 いつもステージ上で虐められている男が俺ならばと想像し、股間を膨らませていたが、そこに自分が立つことは一度も無かった。後で聞いたのだが、そこでは仕込みの客と店員のSMプレイしかしなく、安全面のために客が飛び入りで入ることはないとのこと。



 SMバーのバーテンの女の子と仲良くなり付き合うことになったのだが、彼女は偽S女王様で、私生活ではむしろMだった。それを知ったときの絶望。家には彼女に責めてもらおうと、通販で用意しておいた様々なSMグッズがあったのだが、それらは全てクローゼットの奥に封印したのだ。


 その彼女のお陰で無事に脱童貞はできたが、何せ性癖が違うのだから長くは続かない。彼女とは半年もしないうちに別れた。しかし少し女性と話す事に馴れたので、そこからは何度か女性と付き合ってみたが、どうもみんな俺をイケメン扱いして有り難がる。


 これでは中高大学生時代に逆戻りではないかと思っていたときに、素晴らしい出会いが俺を待っていた。俺は大阪勤務から東京本社に移動になったのだ。そう、その出会いは東京本社で俺を待っていたのだから……。


「今日から東京本社に移動になりました浮田です。これから皆さんと共に頑張っていきたいので、どうぞよろしくお願いします」


 俺がそう挨拶した時に、俺の視界の端で赤い眼鏡を光らせて鋭い視線を投げかけてくる女性が居た。それは正に俺が求めている女王様の佇まい。腕を前で組んで指をポンポンと動かし自分の腕を叩いている。脚は少し開いて仁王立ち……。足元は七センチ黒ヒール!


「西浦さん。君が浮田課長のアシスタントになるから。頼んだよ!」


 部長の声でハッと我に返った俺は、彼女の名前が西浦だと知った。俺は嬉しくてきっと笑みが溢れていたかもしれない。すると西浦さんが少し間を開けて「……はい」と不機嫌そうに言うのだ。


 ああ、もう駄目だ……。彼女は俺の理想の女王様ドンピシャじゃないか!
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