推しを愛でるモブに徹しようと思ったのに、M属性の推し課長が私に迫ってくるんです!
午前八時五〇分 浮田課長視点
**** 午前八時五〇分 浮田課長視点 ****

 
西浦さんは今日も髪を一つに結わえている。それをシュシュというやつで飾り、細めの赤ふち眼鏡を掛けているのだ。世の皆がコンタクトを愛用している中、西浦さんは「眼鏡派」だと公言していた。

 
 俺は席に座って鞄を足下に置く。そしてスッと顔を上げると、チラッと西浦さんと目が合った。彼女はバッと目を逸らしたが、彼女が俺をいつもコッソリ見ているのを知っている。今日も俺の頭の先から脚の先までファッションチェックが入っていた。その所為で、俺は毎日コーディネートを頑張っている。俺のコーディネートが彼女のお眼鏡にかなうと、彼女は満足そうに微笑む。もし下手を打つと、溜め息を吐かれるのだ。
 
 
――よ、良かった! 今日は合格なのだな……。
 
 
 西浦さんは少しきつめの性格のようで、同性の社員の中では浮いているようだった。しかし俺は知っている。彼女は真面目で人一倍頑張って仕事を覚え、あっという間に入社数年位の営業なら、太刀打ちできない程の事務処理能力を入社一年で手に入れていたのだ。

 
 俺は一般事務職の子達は寿退社で直ぐに辞めてしまうと思っていたので、総合職の子達みたいに頑張る西浦さんが段々と気になりだした。もちろん、俺の理想の女王様像そのままだったのも大きいが……。
 
  
「浮田課長、課長から見て二時の方向の営業二部二課の佐々木さんが、熱視線を送ってますよ」
  

 ああ、まただ。佐々木さんってしつこいのだよなあ。俺は女性が苦手というか赤面症で女性と話す時にあがってしまう。その所為でこの歳まで独身だった。俺の外見が少し女性受けするので、引っ切りなしに告白はされる。しかし皆に女慣れしていると勘違いされているようで、付き合ってみれば不慣れな俺の態度に絶望されて振られるを繰り返し、その度に傷つき、もっと女性が苦手になっていった。最近は女性が近づいて来ると動悸までするから絶望的だ。
 
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