推しを愛でるモブに徹しようと思ったのに、M属性の推し課長が私に迫ってくるんです!
 
 そんな中でも西浦さんだけは違った。一般的な女性と違って、目をハートにして上目遣いで迫ってこない。一歩引いた冷めた態度で俺に接してくるのだ。俺はそれにやられてしまったのかもしれない。あの冷めた目で眼鏡越しに睨まれたら……。
 
 
「本当に無理……」
 
 
 俺は顔を下に向けて呟いた。きっと顔も赤いかも知れない。だって過去の色々な西浦さんの冷たい表情を思い出してしまったのだから。そして俺の下半身が少し反応してしまう。まただ、西浦さんが真っ赤な顔の俺を冷たい目で見ているじゃないか。
 
 
「西浦さん……、助けて!」
 
 
 あれ? ん? 西浦さんの顔が嬉しそうではないか。俺が困っている姿を見て興奮しているのか?西浦さんはあっという間に佐々木さんの件を解決している。佐々木さんという障害を追いやった西浦さんは満足げに席に着いた。
 
 
「……西浦さんって凄いね。敏腕秘書って感じ」
 
 
 俺は心底そう思ったが、西浦さんは冷たい表情で俺に返事をしてくる。またあの冷めた目で。そうだ、今日はお弁当を手作りしてきたのだ。少し多めに持って来たし、西浦さんと食べたい。けれどもどうやって誘えば良いのだろう。そう言えば今日は会議が……。
 
 
「浮田課長、今日は十時から会議があります……」
 
 
 俺はこれは使えそうだと内心ほくそ笑んだ。
 
 
「西浦さん、悪いけど会議の時に一緒に来てくれる?」
 
 
西浦さんの眉がピクリと上がる。彼女は忙しいと冷たく返事をしてきたが、俺はここで引き下がる訳にはいかない。押して駄目なら引いてみろ作戦で「今日は自分でやる。西浦さんに頼ってばかりじゃ駄目だ」と心にも無いことを言ってみた。するとどうだ。西浦さんが急に「手伝うと」言ってきたじゃないか。やはり昔からある言葉は事実が多い。押して駄目なら引いてみろ作戦成功だ。
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