綺麗になんてなれない
翌日、私はまたあのポーチを見つけた。
洗面台の下の物入れ、女性ものの小花柄。手に取って、どうしたものかと逡巡していると、義之がひょっと洗面所に顔をのぞかせた。
「ああ、そのポーチ、捨てていいぞ」
やけに軽く言う彼に、私のほうがぎょっとした。
「いいの? また来たとき、怒られるんじゃない?」
「もう、呼ばないから」
予想もしていなかったセリフに、聞き間違いかと思ってしまう。
うろたえる私に気がついて、彼はしぶしぶ続けた。
「……若葉に遠慮して他の人に逃げてたけど、そっちの方が余計心配させるってわかったから」
視線をそらした義之のうなじが、なんだか赤い気がして、私の口角が、ひとりでににゅーっと上がっていく。
「……ふふふ」
「なんだよ気持ち悪い」
「なんでもない」
「……あっそ」
ずっとずっと、この道の先には真っ暗な闇ばかりが続くと思っていた。
だけど、もしかしたら闇の向こうには、小さな陽だまりが私たちを待っているのかもしれない。


