伯爵令嬢のつもりが悪役令嬢ザマァ婚約破棄&追放コンボで冥界の聖母になりました
 どれほどの時がたっただろうか。

 カササッ……。

 物音が聞こえた。

 カササ……。

 エレナはベッドの上で起き上がった。

 カサササ……。

 いるのですか?

 フィアトルクス!

 部屋にぼんやりとした明かりが満ちる。

 ルクスですか?

 カサ……。

 辺りを見回しても姿は見えない。

 カサカサ……。

 でも音は確かに聞こえる。

 目をこらしてみると、壁に小さな黒い虫が張りついてるのが目に入った。

「ルクス!」

 帰っていたのですか。

 ならばどうしてそんな姿のままなのですか。

 壁に歩み寄ろうとすると、エレナの影を察知した虫が逃げ出す。

 闇に紛れてしまってどこにいるのか分からない。

「どうして逃げるのですか?」

 カササ……。

 音のする方を向いてみても、やはり姿は見えない。

「ルクス……でしょう?」

 呼びかけても返事はない。

 ベッドの上で何かが揺れる。

 黒い虫の頭に伸びる触角だ。

 ゆらりゆらりと周囲の様子を探っている。

「どうしてそんな姿のままなのですか」

 エレナが手を伸ばそうとしただけで小さな虫はまた闇の中へ姿を隠してしまった。

 もしかして。

「おまえは……ただの虫なのですか?」

 カサ、カササ……。

 壁を這い上がるゴキブリの姿を見てエレナは笑い出した。

 はあ……。

 わたくしはただの虫に何を期待したのでしょうか。

 まぎらわしい。

 おまえは一体何をやってこの冥界へ堕ちてきたのですか。

 わたくしをからかうためというのなら、立派にその役割を果たしましたよ。

 ならば、おまえを潰してこの茶番を終わりにしてしまいましょう。

 エレナはベッドの上の枕を取り上げて思いっきり壁にたたきつけた。

< 104 / 117 >

この作品をシェア

pagetop