伯爵令嬢のつもりが悪役令嬢ザマァ婚約破棄&追放コンボで冥界の聖母になりました
「ちょっと、あなた、何をするのですか」

 呆然とするエレナに侍女が言い放った。

「おとなしくした方が身のためですよ。お嬢様は罪人でございます」

「それが主人に対して言うことですか」

 フッと侍女の口元にゆがんだ笑みが浮かぶ。

「すべては筋書き通りでございますよ」

 筋書きって……。

 ミリア、あなたいったい……。

 しかし、問いつめようとしたときには、追いついた衛兵達に取り囲まれてしまっていた。

 その後ろから階段を上がってきたウェイン王子とヒューム大臣に向かってミリアがエレナを突き出した。

「おう、その方、お手柄じゃ。者共、引っ捕らえよ」と、老大臣が衛兵達に捕縛を命じた。

 ウェイン王子が口の端をゆがめながらエレナに侮蔑的な笑みを向けている。

「まったくとんでもないお転婆娘だな。クラクスのみならず僕にまで反逆するとは。死刑は免れないと覚悟しろよ」

 そんな!

「おそれながら」とミリアが王子に頭を下げて言上した。

「なんだ。その方、見れば侍女のようだが。手柄はほめてつかわすが、身分をわきまえよ」

「殿下に申し上げます。わたくしは今はたしかに侍女の身ではございますが、本来は貴族の血を引くものでございます」

 思いがけない告白に王子も興味を持ったようだった。

「ほう、名はなんと申すか」

「わたくしの本名はミリア・コンテ・デル・ラベッラ。かつてシュクルテル伯爵家の卑劣な陰謀によって滅ぼされたラベッラ公爵家の血を引く者でございます」

 よどみなく堂々とした声が大ホールに響き渡る。

 エレナは呆気にとられてその残響を聞いていた。

 どういうこと?

 ミリアが?

 公爵家の娘?

 卑劣な陰謀って何よ。

 もう何がなんだかわけが分からない。

 夢を見ているのだろうか。

 王宮に来てからの展開が急すぎてまったく飲み込めない。

 幼児の婚約者。

 不潔な傲慢王子。

 侍女の裏切り。

 わたくし、きっと悪夢を見ているのよね。

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