伯爵令嬢のつもりが悪役令嬢ザマァ婚約破棄&追放コンボで冥界の聖母になりました
 今までのなにげない日常の風景が心の中に去来する。

「わたくしはあなたを本当に姉のように思っていたのに」と、エレナは素直な思いを口に出した。

「自分で何もできないから私にやらせていただけでしょう。利用していただけの関係を今さら言い繕うのはみっともないですよ」

 ふっとため息まじりの笑みを浮かべながら、ミリアが続けた。

「もっともそれは私の方でも同じですけどね。復讐のためにおまえの信頼を利用していたのですから」

 黙り込むエレナに、ミリアがいらだちの表情を見せた。

「何よ、少しはわめいたらどうなの。悪役らしく呪いの言葉でも浴びせたらいいじゃない。それでこそ悪役令嬢というものでしょう」

 エレナは微笑みを浮かべながら穏やかな口調で答えた。

「いいえ、慈悲深いお母様の名にかけても悪態などつきませんわ。それよりもわがままなわたくしを今まで世話してくれてありがとう。心からお礼を申しますわ」

 その言葉は嫌味や強がりではなかった。

 これまでの生活のすべてが嘘偽りだったとは思えなかった。

 いくらかでも、そこに心があったのなら、それは否定したくなかったのだった。

 そんなエレナの様子を見て、しばらくミリアは思案を巡らせているようだった。

 そして、衛兵たちを呼び戻すと、エレナを跪かせるように命じた。

 壇上からエレナの前へ下りて、頭を押さえつける。

「本来なら、ここで罪人を処刑するところですが、わたくしも人間です。少しくらい筋書を変えてもいいでしょう。城へ帰って父親の葬儀と埋葬くらいはさせてあげてもいいわね。連れて行きなさい」

 衛兵たちはミリアの縄を引っ張り上げて、再び引きずるようにしながら小広間から連れ出した。

 入れ替わりにクラクス王子が駆け込んでくる。

「ダッコダッコ」

 ミリアが王子を抱き上げて頬を触れ合わせる。

「よしよし、あなたは大切な切り札ですからね。わたくしのために役に立つのですよ」

 そして、世話係を呼びつけて命じた。

「おむつを替えなさい。お尻が臭いますよ」

「もうしわけございません。ただいま」

 王子を預けると、ミリアは扇で臭いを払った。

 まったく。

 早く王位を奪って、あんなクソガキとおさらばしたいものだわ。

 まあ、その前に、仕上げをしないといけないわね。

 ミリアは靴音を響かせながら小広間を出て、玄関へと向かった。

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