伯爵令嬢のつもりが悪役令嬢ザマァ婚約破棄&追放コンボで冥界の聖母になりました
「それに、おまえは冥界の木の実を食べた」

 さっきの赤い果物のことだ。

「あれを食べた者は二度と冥界を出ることはできなくなる」

 なんということか。

 エレナはルクスに詰め寄った。

「わたくしをだましたのですね!」

「だましてなどいない。おまえが自分で勝手にもいで食べたのだろう。人の欲望とはそれ自体罪深きものだ」

 言われてみれば確かにそうだ。

 ルクスが食べているのを見て、安心してつい手を出してしまったのは自分だ。

「でも、あなたも食べたではありませんか」

「俺は冥界の帝王だからな。食べても影響はない」

 またそれだ。

 エレナは議論する気力を失っていた。

「それと、もう一つ言わなかったことがある」と、ルクスが爪の長い指でエレナを指す。「体がうずいてこないか?」

 あの実を食べてから、体が火照っているような気はしていた。

 空腹が満たされたからだと思っていたが、違うのだろうか。

「あの木の実は快楽の実だ。食べたものはあらゆる欲望をほとばしらせ、求めるようになる。そのうちおまえは俺に身も心もゆだねたくなるさ」

「ひ、卑怯な罠を……」

 ルクスはエレナの頬に手を当てた。

「そんなに頑なになることはない。おまえにとって、悪いことではないだろう」

「そのような卑劣な手を使わずとも、好きなようにすればよいではありませんか。冥界の帝王なのですから」

「痴態を眺めるのも一興だ」と、ルクスが耳元に顔を寄せた。「とくにおまえのような女のな」

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