伯爵令嬢のつもりが悪役令嬢ザマァ婚約破棄&追放コンボで冥界の聖母になりました
 妖魔が腕で自分の胸を挟み込んで谷間を強調して見せつけてくる。

「まあ、でも帝王様はあたしみたいないい女の方がお気に入りだからべつにいいけど」

「お、お気に入りとはどういうことですか」

「だから、あんたみたいなつまんない女より、あたしみたいな抱き心地のいい女の方がかわいがられるってことよ」

「そ、そんなのわからないじゃありませんか」

「アハハ、ムリムリ。あんたじゃ無理だって。絶対あたしに決まってんじゃん」

「いいえ、わたくしの方です」

「なんでよ」

「わたくしの方が美しいからです」

 エレナは自信を持って断言した。

 体型はともかく、こんなへんな化粧の女に負けるはずがない。

 すると、鏡の中の妖魔が突然口をゆがめてまた両手を伸ばしてきた。

 ガッチリと肩をつかまれる。

「ま、顔がカワイイのは認めてやんよ」

 急に様子が変わって、エレナは恐怖を感じた。

 妖魔がいきなり鏡の中へ引きずり込もうとする。

「あんたのそのかわいいお顔をあたしによこしな。ナイスバディにあんたの顔が手に入ればあたしは理想の女になれるのよ」

「お、おやめなさい!」

 逃げようと背を向けたエレナの頬を妖魔が後ろからつかむ。

「フンッ、お上品なのも気に入らないねえ。顔を剥ぎ取ってやる」

 思わず肘で突き放そうとすると、顔がビリビリと音を立てて引きはがされそうになって、エレナは叫び声を上げながら振り向きざまに拳と肘で鏡を殴りつけた。

 バリン、ガシャンと派手な音を立てて鏡が砕け散る。

 そのとたん、強い力は消え去り、周囲はまた物音一つしない暗闇に覆われていた。

 かろうじて自分の周辺だけがぼんやりとした明かりに包まれている。

 床に散乱した破片を見つめながら、エレナは息を整えた。

 妖魔の姿はどこにもない。

 いったい、あれはなんだったのだろう。

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