伯爵令嬢のつもりが悪役令嬢ザマァ婚約破棄&追放コンボで冥界の聖母になりました
 ところが、テーブルの反対側でサキュバスも食事を始めると、エレナの手は止まってしまった。

 ぴちゃぺちゃ。

 ジュルジュルル。

 サキュバスはスプーンを使わず、皿を持ち上げて直接口をつけてずるずると音を立てながらシチューを流し込んでいる。

 口の中に入ってきた肉片を獣のようにぺちゃくちゃと音を立てながら咀嚼する。

 村のお祭りで調子に乗りすぎた酔っ払いみたいに下品な食べ方だ。

「あの、すみませんが、もう少し……その、お静かにお召し上がりになれませんか」

 皿に残った肉を指でかき集めて口に放り込んだサキュバスはきょとんとした顔でエレナを見た。

「なんで?」

「マナーというものです」

「おいしければ何でも良くない?」

「相手を不快にさせない思いやりも大事ですよ」

「いいじゃん。どうせあたしはあんたなんだし」

「ですから、わたくしはそのような食べ方をしません」

「じゃあ、似てなくて良かったじゃん。あんたもその方がいいんでしょ」

 似ていても似てなくても、どちらも話にならない。

 エレナはため息をつくしかなかった。

 シチューのついた指をベロベロとなめ回してからサキュバスがエレナの手をその汚い指でさした。

「あんた、なんかいいもんつけてるじゃん」

 ルクスに取り戻してもらった指輪のことだ。

「あたしにちょうだいよ。あたしの方が似合うって」

「いやです。これはルクスが取り戻してくれた大切な母の形見ですから」

「ルクスって誰よ」

「あの人のことです」

「だから、あの人って誰よ」

「この館の主、冥界の帝王です」

「ハア? 何それ。どういうことよ。どうしてあんたがそんなあだ名をつけちゃうわけ? 生意気じゃん」

「あだ名ではありません。あの人が好きな名で呼べというので、わたくしが名付けました」

「キィーッ! 何よ、それ、チョーずるいじゃん。あたしにはそんなことさせてくれなかったのに! なんであんただけそんなことしちゃうわけ? あたしに内緒でそんな名前で呼んでたなんて許せないんだけど。プンスカ!」

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