伯爵令嬢のつもりが悪役令嬢ザマァ婚約破棄&追放コンボで冥界の聖母になりました
「あんたさ」と、自分で一口味見しながら妖魔がエレナに顔を寄せてきた。「そんなこと言ってるけど、のぞきに来たんでしょ。もう、興味津々じゃん」

 エレナは顔を赤くしながら首を振った。

「ち、違います。わたくしは名前を呼ばれたから行ってみただけです」

「はあ? 呼ばれた? んなわけないじゃん」

「いえ、まちがいなく『エレナ』と寝言を言ってました」

「寝言はあんたが寝て言いなよ。帝王様が呼んでいたのはあたし。だって、あたしとイイコトしてたんだから」

「一人でしたわよ」

「あたしもいたよ」

 ルクスは一人で枕を抱きしめていたはずだ。

 サキュバスがニヤつきながら鼻歌を歌い出す。

 鍋底を引っ掻くような不快な歌声だ。

「ふんふーん、ふん、ねえ、何してたか知りたい?」

 エレナは顔をしかめながら首を振った。

「ねえ、知りたい?」

 しつこい妖魔だ。

「いいえ、結構です」

「えー、ていうか、聞いてよ」

「嫌です」

「聞いてくれなくてもしゃべっちゃうしぃ」

 サキュバスは鍋をかき回しながら『帝王様ったらぁ』とか、『もうすごいのぉ』とか、『あたしもうアハンハンでぇ』とか、一人でベラベラと意味不明なことを語り出す。

 エレナはその言葉を一切聞き流しながら鍋の様子を眺めていた。

 相変わらず料理そのものはとてもおいしそうだ。

「ねえ、ちょっと、聞いてる?」

 聞いてません。

「でね、もうアソコがジンジンヒリヒリしちゃって大変なのよ、もう」

 うふふと笑い出したかと思うと、妖魔が声を潜める。

「ねえ、アソコってどこだか分かる?」

 エレナは静かに答えた。

「唇ですか」

「セイカーイ! えー、なんで分かるの?」

「だって、真っ赤に腫れてますもの」

「やだあ、もう、恥ずかしいー。そうなのぉ、チューしすぎちゃってぇ、たいへーん。もうねぇ、帝王様、あたしにギュッとしがみついて離してくれないんだもーん。ていうか、あたしも離さないしぃ」

 相手にするのも馬鹿馬鹿しい。

 こんな妖魔と遊んでいる冥界の帝王というのも軽蔑の対象でしかない。

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