伯爵令嬢のつもりが悪役令嬢ザマァ婚約破棄&追放コンボで冥界の聖母になりました
 ミルヒは仰向けになってお腹を見せて、もっとやれと催促している。

「えへへ、ママがね、甘やかしたら駄目だって。怒られちった」

 クゥン、クゥンと悲しそうな声で鳴く。

「ミルヒ、いらっしゃい」

 エレナが呼んでもサキュバスのところから離れようとしない。

「あたしと遊びたいんだもんね」

 床の上で仰向けになって、一緒になってぐるぐる転げ回っている。

 モップじゃないんだから……。

 ほこりが舞って、エレナはくしゃみが止まらなくなってしまった。

「くしゅん。そんなこと……くしゅん、していると……くしゅん、ほこりまみれになってしまいますよ」

 子犬と妖魔の二人はまったく聞く耳を持たず、オンオン、ケラケラと陽気にふざけあっている。

 少し甘やかしすぎたのだろうか。

 言うことを聞きそうにない。

 エレナはテーブルを思いきりたたいた。

 ドンッ!

 ビクッとしてミルヒがおとなしく床に座り込む。

「えー、何なに、どうしたの?」と、サキュバスが立ち上がって詰め寄ってくる。

「遊んでばかりいてはいけません」

「なんでよ。子供は遊ぶもんじゃん。悪い?」

「甘やかせるのは、本人のためになりません」

「あんたみたいに何にもできなくなるもんね」と、サキュバスがペロッと舌を出す。「全部任せっぱなしの元貴族のお嬢様」

 言い返せないのが悔しい。

「ええ、そうです」と、開き直るしかない。「だから、厳しくするところはしっかりとしなければいけないのです」

「べつにいいじゃん。まだ早くない? 遊びたいんだし……」と、サキュバスがちらりとミルヒに視線を送る。「あの子、あんまり遊んでもらったことないんだよ、たぶん」

 冥界に堕ちてきたときに泣いていたばかりいた男の子。

『ママ、ぶたないの?』と、おびえてばかりいた男の子。

 エレナはその姿を思いだして、何も言えなくなってしまった。

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